人工知能(AI)に関する記事をよく目にするようになった。特に米グーグルの持ち株会社アルファベット傘下の英ディープマインドが開発した囲碁用の人工知能「アルファ碁」が、2016年3月に世界最強といわれた韓国の棋士を破ってからは、一種のAIブームの様相を呈している。アルファ碁のAIにはディープラーニング(深層学習)という機械が自分で学ぶ仕組みが用いられている。AIの研究そのものは半世紀以上の歴史を持ち、今回のブームが3度目のようだ。

このままAIが指数関数的に進化を続けていくと、45年にはAIが人類を追い抜く「シンギュラリティ」(技術的特異点)が到来すると指摘したのが米国の未来学者、レイ・カーツワイル氏だ。AIの進歩によって将来機械に取って代わられる職業ランキングなども話題になるが、既に画像認識や音声認識技術などでは人間の能力を超えたといわれている。

中国はこのAIに着目し、17年7月に「次世代人工知能発展計画」を発表した。30年に中国はAI産業分野で世界のリーダーとなり、産業規模1兆元(約17兆円)を目指すという意欲的なものだ。

中国インターネット情報センターによると、17年6月の時点で世界のAI関連企業の総数は2542社に達しており、トップの米国が1078社で全体の42.4%を占め、第2位は中国の592社で23.3%を占める。

確かにAI分野で優れた技術力を持つ企業が中国で育ってきている。画像認識分野のセンスタイム(商湯科技)もその一つだ。重慶市の公安局が街中に設置してある監視カメラの映像を同社の画像認識技術を用いてテストしたところ、40日間で69人の容疑者を発見し14人を逮捕したという。他の先進国と個人のプライバシーに対する考え方が違うため、このような実証実験を実施できるのも中国の強みだろう。

音声認識技術ではアイフライテック(科大訊飛)も有力企業の一つだ。中国科学技術部が昨年11月に発表した4大AIプラットフォーム計画に中国3大IT企業のBAT(バイドゥ=百度、アリババ=阿里巴巴、テンセント=騰訊)と並んで、音声認識を担当する企業として選ばれている。

米スタンフォード大学が作ったAIの読み取りテスト「SQuAD」でも、上位にランクインしている実力派である。身近なところでは「訊飛輸入法」というスマートフォン用の音声入力アプリも公開されている。残念ながら、中国語と英語にしか対応していないが、中国語は普通話だけでなく広東語、上海語などの各地方の方言も認識できる。

最近話題のAIスピーカーも中国企業の技術力と今後の成長が注目される分野の一つであろう。調査会社の米ガートナーによるとAIスピーカー市場は、20年には21億ドル(約2200億円)市場へと拡大し、全世界の世帯普及率は3.3%に達するとしている。現在の世界市場では、米アマゾン・コムの「エコー」とグーグルの「ホーム」が2強だ。

既に中国国内でも、自国製のAIスピーカーがいくつか発売されており、スマホで有名なシャオミ(小米科技)も「小米AI音箱」を発売している。AIスピーカーの主要な機能の一つに音声による検索機能がある。周知の通り中国では政治的に敏感な用語などの検索に関して、規制が実施されている。

AIスピーカーはこのような微妙な検索にどう対応していくのだろうか。機械が自ら学ぶのがAIのはずであるが、学習機能に「忖度(そんたく)」するような機能を付与することができるのだろうか。中国におけるAIスピーカー市場がどうなるのか、興味が尽きない。
2018.3.19 05:00
https://www.sankeibiz.jp/business/news/180319/bsg1803190500002-n1.htm