国内でも店舗での支払い時などに現金を使わない「キャッシュレス決済」が増えつつある。しかし、元々クレジットカード決済が多い米国や、スマートフォンでの電子決済が爆発的に増えている中国に比べ、日本は消費者の現金志向が強いため、キャッシュレス決済の普及がなかなか進まないとされてきた。しかし、日本もやがて「現金のない社会」になるのか。ニッセイ基礎研究所の福本勇樹氏に解説してもらった。

「現金が使えない」店舗
2017年11月、ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」を運営するロイヤルホールディングスが、クレジットカードや電子マネーなどでしか料金を支払えない店舗を東京都内に開店して話題になった。18年には、ローソンでスマホを使って客が自ら決済するサービスの導入が予定されている。

 メガバンクでも、みずほフィナンシャルグループの「Jコイン」など、「デジタル通貨」の導入が検討されるなど、各業界でキャッシュレス化に向けた動きが加速している。

 これらの動きに共通する大きな目的の一つは「業務の効率化」や「人員配置の最適化」だ。

 現金決済は人の手で紙幣や硬貨をやり取りすることで取引が完了する。一方、クレジットカードや電子マネーなどによるキャッシュレス決済は、電子データのやり取りだけで済む。

 キャッシュレス化によって、店舗側が取引時にカード運営会社などに支払う決済手数料などは増える。その一方で、現金をレジから出し入れし、管理したり、輸送したりするために必要な人件費などのコストを減らせる。

 決済データのやり取りはコンピューターやネットワークを介して行われるため、消費者の購買データを簡単に蓄積できる利点もある。店舗側はデータから消費者の行動を分析し、収益性の向上を図ることもできるようになる。

 キャッシュレス化で、店舗で現金の管理などに充てていた人件費を、消費者の購買行動を分析する人件費に回せば、業務の効率化につながりそうだ。

 20年の東京五輪・パラリンピックを控え外国人観光客が増える中、キャッシュレス決済に慣れている外国人に対する商機をものにして、新しい「収益源」につなげることもできるだろう。

キャッシュレスは「お得」
キャッシュレス化は、店や企業側だけではなく消費者にもメリットがある。

 キャッシュレス決済を利用することで、現金を金融機関の窓口やATMから引き出す手間やコストがなくなる。さらに、盗難や紛失に対応する保険や補償が付いたクレジットカードは不正利用のリスクを減らせる。また、記名式の電子マネーなら、万一盗難にあって使用された場合も、利用記録と防犯カメラの映像などから、犯人を割り出す手がかりを得る可能性が高く、紛失した際に再発行も可能だ。

 また、クレジットカードや電子マネーの利用状況を電子データで確認できるため、レシートなども不要になるほか、家計簿アプリなどと連動させれば、簡単に自己資金を管理できる。ポイントやマイルの還元で、現金決済より「お得」になる場合も多い。

GDP増加に寄与?
 社会的な観点で見ても、キャッシュレス化は経済を活性化させる可能性がある。米調査会社ムーディーズ・アナリティクスの分析では、世界でクレジットカードなどの決済が1%上昇すれば、GDP(国内総生産)が各国平均で0.1%増え、日本でも0.04%増加するとの結果が出た。

 インターネットショッピングなどではクレジットカードによるキャッシュレス決済が基本だ。消費者がキャッシュレス決済を用いて物やサービスを購入する選択肢は、消費者が店まで足を延ばす必要がなくネットで完結する。その分、購買の機会も増え、結果としてGDPを押し上げる、というわけだ。

 さらに、現金決済の場合、消費者の買い物の「予算」は財布の中にある手持ちの硬貨・紙幣の総額に制限される。しかし、キャッシュレス決済を活用できる場合は、金融機関に預けている資金などにまで拡大する。
以下ソース
http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20180206-OYT8T50021.html