経営者の中には、いつも決まった装いの人がいる。人前に立つときは黒のタートルネックにジーパン姿だったアップルの共同創業者、故スティーブ・ジョブズ氏しかり、グレーのTシャツ姿のフェイスブック、マーク・ザッカーバーグ共同創業者兼最高経営責任者(CEO)しかり。2017年6月、IT(情報技術)大手、日本オラクルのトップに就任したフランク・オーバーマイヤーCEOもそんな一人といっていい。黒を基調に、モノトーンでまとめるのがスタイルだ。ネクタイは絞めず、カジュアルな装いを貫くのはIT分野といった業界ならではなのか、あるいは個人的なスタイル(流儀)なのか。

――シャツにカーディガン、パンツとすべて黒ずくめですね。

 「黒が好きなんです。今日、着ているのはイタリア製のシャツですが、自宅には同じものが50着あります。母国ドイツで洋品店を営む友人が7年前、勧めてくれたものです。スリムな仕立てが私の体形に合い、気に入りました。最初に5着まとめ買いし、その後も仕事の関係でドイツと米国の2カ所に拠点を置く生活が始まったため、新たに買い足しました。そんなこんなで50着まで増えました。サイズ、色とも全部一緒です」

■同じ色味ばかりなら、服装選びも悩まずに済む
「持っている服が全部黒だというわけではありません。紺や白、ブラウンなどもありますよ。でもビジネス用、カジュアル用とも、装いの基調は黒で、それ以外の色味のものは少数派ですね」

 「毎朝、ワードローブの前に立ち、その日の気分で服装を選ぶわけですが、同じ色味が中心だと選択する際も、悩まずに済み、助かります。もっとも、黒のTシャツなどは、日差しが照りつける夏場は時に、悩ましいなと思うことがありますが」

――黒がお好きな理由は何ですか。
「ミニマル(最小限)なもので暮らしたり、質素で気取らなかったりという意味の『ミニマリスト』や『シンプリシティ』という単語があります。その2つの言葉は私という人間を的確に言い表しているように思うのです。ミニマリストであり、飾ることなくシンプルな生き方は私の理想であり、目指すべき自己スタイルでもあるのです。その2つの言葉をイメージさせる色。それが私にとっては黒なのです」

 「『差し色』でファッションにアクセントを付ける方もおられますが、私は同系色でまとめる方が好きです」

ワードローブを断捨離 スーツはわずか5着に
 ――昔から今のスタイルを貫いてこられたのですか。

 「違います。実は今から7年ほど前、自宅のワードローブを大胆に断捨離しました。今はスーツが5着しかありませんが、それまではその5倍、全部で25着も持っていました。色味も今と違ってもっとカラフルなものが多かったのです」

 「これまで私は、デル、ヒューレット・パッカード(HP)などでキャリアを積んできました。その中で『周囲や前任者とは違うことをやらないと評価されない』ことを学びました。7年ほど前といえば、私自身のキャリアの転機とも重なります。担当部門にとどまらず、広く会社経営全般に目配りしないといけない立場に変わりました」

「ビジネスリーダーの一人として、自分がどうありたいか。それを周囲に理解してもらうにはどうするか。そのための手段として、それまで膨大だったワードローブの中身を一気に絞り込み、黒基調のカジュアルファッション主体の今のスタイルに変えることにしたのです。もともとフォーマルスーツは好きじゃなく、ネクタイはそれからはほとんどしなくなりました」

 「『どうしてネクタイをしないのか』と聞かれたことが一度だけありました。そう聞いてきた方はフォルクスワーゲンのボードメンバーの方でした。ファッションが変われば、ビジネスが変わるとお考えの方もおられますが、私はファッションの変化はその人自身が変化の渦中にあるシグナルだと思っています」

「業界によってドレスコードには少なからず差があるとは思いますよ。公務員などはやはりきっちりした格好をしている人が多い。とはいえ、その格好がその人が属している会社や組織を表現しているわけでは決してありません。ファッションが変わった結果、ビジネスが変わることはあるかもしれませんが、私はファッションとはあくまで自分を表現するものに他ならない、と思っています」
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO26297940Q8A130C1000000