本、DVD、服、食品はもちろん、近年はアルコールや車さえも買える。まさに「エブリシング・ストア」と言われるアマゾン。

アマゾンで買えないものは、不動産、犬や猫などのペット、医薬品(市販薬はOK)、銃火器、宝くじなど特殊な商品だけで、あとは何でも手に入る。

アマゾンには二つの哲学がある。それは「地球上でもっとも豊富な品揃え」と「地球上でもっとも顧客を大切にする(安く早く配送する)」こと。この企業理念を徹底的に貫き、ここまで成長してきた。

だが、ここ数年アマゾンが自社で商品を開発するようになったことで、その理念を自ら否定するような行動に出始めた。

昨年の12月、グーグルが「アマゾンは『グーグルホーム』(AIスピーカー)などを意図的にサイトから排除している。それは自社の商品『アマゾンエコー』を売るためだ」と主張。

音声により商品を注文したり、気分に合った音楽をかけたりしてくれる自社の「アマゾンエコー」を売りたいがために、競合するグーグルホームをあえて仕入れなかったのだ。

それに対し、グーグルはアマゾンの端末(FireTVなど)から動画配信サイト「ユーチューブ」が見られないようにする対抗策に打って出た。

顧客のためにたくさんの商品を取りそろえる「顧客ファースト」を掲げながら、自社商品と競合するものは排除する――。この行為に一部の専門家の間では「独占禁止法に当たる」との指摘もある。

しかも、これはグーグルやアップルのようなIT企業に限った話ではない。すべてのメーカーにいつ降りかかってもおかしくない問題なのだ。

「現在、アマゾンはPB(プライベートブランド)を積極的に開発しています。

ファッションや家電はもちろん、今後は水などの飲食料品や洗剤などの生活消耗品まで自社で製造し、販売するという話もあります。ネット通販会社だったのが、サプライヤー(商品製造者)になるのです。

規模の大きさを活かして、激安のアマゾンティッシュなどを販売すれば既存のメーカーは太刀打ちできないでしょう」(元アマゾンジャパン社員の林部健二氏)

アマゾンが作った商品とバッティングする商品があれば、それらはアマゾンのサイトから削除される。必然的にその商品は、購入機会が減り売り上げは落ちていく。

アマゾン依存が強まるなか、アマゾンで売っていない商品は「存在しないのと同じ」と言わんばかりの状態になってしまうのだ。多くの顧客を抱え、物流を牛耳るアマゾンだからこそできる「力業」である。

アマゾンに同じ商品を作られた途端、そのメーカーは窮地に陥る危険性をはらんでいる。すでに米国では「to be amazoned(アマゾンされる)」という隠語が生まれるほど、既存企業がアマゾンに顧客と利益を奪われる恐怖が広がっている。

問題は既存のメーカー以上の商品をアマゾンが作り出せるかだが、その可能性は十分あるという。

「アマゾンの強みはマーケティングにあります。どんな人がその商品を買っているのか、お客さんが何を求め、どんな不満を持っているか、などあらゆる商品や顧客の膨大な情報を高精度で分析している。それを元に自社で優れた商品を作ることは十分可能です」(物流コンサルタントの千本隆司氏)

メーカーに対するアマゾンの要求は年々厳しくなっている。顧客からクレームが入った場合、その企業は72時間以内に対応しなければならず、それを怠ると、アマゾンが独断で一定期間の販売禁止を行うなど、アマゾン側からペナルティーが科せられる。

そのためアマゾンの基準に合わせるために、深夜まで仕事に追われる企業も少なくない。

あるメーカーの社員は「アマゾンのために働いているようなもの。一回入ったら抜けられない」と愚痴をこぼす。だが、アマゾンで売ってもらうためには彼らに従うしかない。

「以前なら百貨店やリアル店舗に広告費を投入していましたが、これからはアマゾンにリベートを払う時代になっていくと思います。

アマゾンのサイト上でいかに宣伝してもらえるかが、メーカーにとって最重要になってくる」(フロンティア・マネジメント株式会社代表取締役の松岡真宏氏)

生き残るためにアマゾンの傘下に入るメーカーも今後は増えるだろう。もはやアマゾンは、ビジネス市場そのものの生殺与奪の権を握るほどの力を持っている。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54173