文化資本と英語教育機会

格差社会論の隆盛に伴い、家庭の経済状況が子どもの学習環境を大きく左右するという事実は学界だけでなく一般にも広く認知されるようになった。この点は、英語教育格差も同様だ。英会話教室に足繁く通ったり「子ども留学」をしたりする裕福な家庭の子どもがいる一方で、貧困家庭の子どもは学校の授業に精一杯でそのようなことは望むべくもない――このような不公平な状況に思いを馳せるのは本誌の読者なら容易いだろう。この例のように、英語教育格差と聞いてまずイメージするのは、一般的に経済格差である。

他方、教育社会学では、家庭の文化資本も子どもの教育機会を大きく左右することが長らく知られている (ブルデュー 1990; 苅谷 2001)。しかもその影響力は、条件次第では、経済資本による格差を上回ることさえある。

英語教育・学習においても文化資本の影響は甚大である。筆者のこれまでの研究によると、家庭の文化資本は基本的に子どもの英語学習の有り様を大きく左右することがわかっている。本稿では、具体的事例に即してその内実を紹介したい。

親の学歴が高いほど英語力を得やすい
まず、「文化資本が多いほど、英語ができるようになりやすいか?」というシンプルな(だからこそ重大な)問いを検討する。ただ、文化資本の量・質を厳密に測定するのはかなり困難であるという点に注意されたい。本稿では、文化資本の有用な代理指標と伝統的に考えられている親の教育レベル(学歴)に注目する。

寺沢 (2015) は、2002・2003・2006・2010年に行われた大規模社会調査を分析し、親が大卒・短大卒以上だと、子どもは成人後に英語力を獲得する確率が高いことを明らかにした。その差は、1975-89年生まれの世代で約3倍である。つまり、親が高学歴だと、そうでない人よりも、3倍英語ができることを意味する。なお、それより上の世代になると格差はさらに広がり、戦前生まれ世代でおよそ7倍である。一方、家庭の経済力に起因する格差はこれほどではなく、1975-89年生まれ世代で2倍弱である。

この格差の少なくとも一部は、進学格差を反映したものである。つまり、親が高学歴であるほど子どもの進学率は高くなる傾向があり、教育年数が増える。その結果、英語学習量も増えるので、それだけ英語力を獲得する可能性が高まるのである。ただし、筆者の分析によれば、仮に進学格差の影響を除去したとしても、それでも依然として高学歴家庭→英語力という影響は消えないことがわかっている。高学歴家庭は、英語学習に大きな意義を見出しやすいということを示唆している。

保護者が英語を習わせる目的の差
上記は、文化資本があるほど英語を学習するようになりやすいという話だが、文化資本の影響はそれだけにとどまらない。以下に見ていく通り、英語学習に対する価値観も左右する。

たとえば、保護者がどのような考えで子どもに英語を習わせているか、そこにも文化資本の影響が見て取れる。この点を、ベネッセ教育総合研究所が2006年に行った「第1回 小学校英語に関する基本調査」を用いて検討する。この調査では、小学生の子どもを持つ保護者を対象に、子どもの学校外英語学習が尋ねられている(例えば、英会話教室や学習塾の英語コース、通信教育や市販の英語教材、家庭教師など)。ここでは、子どもに英語を学校外で習わせていると答えた保護者(計886名、回答者全体の約19%)が、どんな目的で習わせているか、そしてその目的はどう文化資本と関係しているか見てみよう。設問は「あなたが、お子様に英語の学習をさせている理由は何ですか」で、9個の選択肢+「その他」を選択してもらう形式(複数回答可)である。
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以下ソース
https://news.yahoo.co.jp/byline/terasawatakunori/20171109-00077950/