米半導体大手のクアルコムは8日、データセンター用チップに参入したと発表した。携帯電話の通信用チップで圧倒的な世界シェアを握る同社だが、最近は携帯に依存した「一本足打法」の負の側面が強まり株価が低迷。6日には同業のブロードコムから総額1300億ドル(約15兆円)の買収を仕掛けられた。新分野を閉塞感払拭への一歩にできるか。

 「クアルコムはもうモバイルだけの会社ではない」。8日に米サンノゼで開いた発表会で、創業家のポール・ジェイコブス会長は息巻いた。顧客である米マイクロソフトの幹部を招いて利点を語ってもらい、協業する英アームつながりで孫正義氏の動画メッセージも流す力の入れぶり。新製品を「破壊者」と呼び、先行する米インテルの製品より性能や価格面で優れていると繰り返した。

 データセンター向けの半導体はクラウドサービス拡大で需要が急増している分野だ。「モバイルで培った技術を生かし新しい成長分野に乗り出す」(ジェイコブス氏)という考え自体は正しい。ただ多くのゲストを呼んで意義を強調するところに、年200億ドル超の売上高の9割近くを携帯に依存する現状への焦りがみてとれる。実際、従来の勝ちパターンには綻びが見え始めている。

 「テクノロジーイネーブラー」。クアルコムの事業モデルはこう呼ばれる。通信モデムなど携帯向けの半導体を造ると同時に、端末造りに必要な基本技術の特許も取得。半導体と特許の両方を提供して端末メーカーを育てながら自身も両輪で稼ぐ仕組みだ。従来型の携帯がスマートフォン(スマホ)に進化し、普及が加速するとともにクアルコムの収入も急増した。

 ただこのモデルが周囲の反感を買った。各国・地域の競争法当局が「優越的地位の乱用」を指摘。今年1月には主要顧客の米アップルも反対勢力に加わり、クアルコムが要求する知財の対価が高すぎると訴えてライセンス料の支払いを止めた。この結果、クアルコムの7〜9月期の純利益は前年同期比で9割減った。

 成長をけん引したスマホ市場も成熟期を迎えている。米IDCによると2017年のスマホ市場の成長率は4.2%の見通し。伸びは続くものの、2けた増だった数年前とは様相が変わった。

 こうした変調から、16年末に60ドルを上回っていたクアルコムの株価は今年1月に急落。ブロードコムによる買収が報じられるまで50ドル台前半をさまよっていた。半導体株が軒並み上昇するなかでの株価低迷が、買収を仕掛けられる一因になったのは明らかだ。アナンド・チャンドラセッカー上級副社長は8日の発表会で買収提案について聞かれ「コメントできない」とするにとどめた。

 クアルコムの上位株主には創業家などのインサイダーはおらず、投資助言会社やファンドが並ぶ。買収提案が敵対的買収に発展したとしても、買い付け価格が合理的であれば、ためらわずに売却する株主も多いとみられる。低迷する株価のてこ入れは「買収防衛」の点でも急務だ。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23309030Z01C17A1TI1000/