英領バミューダ諸島に拠点を置く法律事務所などから流出した膨大な電子ファイル「パラダイス文書」が世界に衝撃を与えています。公表したのは国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)。昨年のパナマ文書に続き、秘密のベールに包まれたタックスヘイブン(租税回避地)の闇に迫っています。

 ICIJによると、電子ファイルは1340万件に上り、タックスヘイブンに設立された法人などの情報が含まれています。同文書の主な流出元は世界に10のオフィスを持つ大手法律事務所「アップルビー」です。

 文書には世界の首脳や閣僚、王室関係者ら120人以上の名前が載っており、タックスヘイブンへの関与がわかるといいます。100を超す多国籍企業の税逃れ工作もあらわになっています。(表)

 パラダイス文書が公表された5日、国際NGOタックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)は声明を発表しました。文書は巨大法律事務所や大銀行の手助けで多国籍企業と富裕層の税逃れが横行している証拠だと主張。国連のもとで首脳会議を開催し、税逃れ根絶の方策を講じるよう呼びかけました。

各国政府が失敗
TJNがとりわけ強調したのは「税逃れと金融犯罪がもたらす損害への対処に各国政府が失敗している」現状です。TJNの調べでは、多国籍企業による軽課税国への利益移転は過去10年間に急増しています。最新の推計では、多国籍企業の税逃れによって失われる税収は年5千億ドル(約57兆円)に達しています。富裕層が資産を申告せず海外に蓄積した結果、失われる税収は年2千億ドル(約22兆8千億円)です。

 現在、経済協力開発機構(OECD)の主導で各国政府は「税源浸食と利益移転」(BEPS)対策の国際協力を進めています。しかし税逃れを可能にしている国際課税方式を根本から変える取り組みとはなっていません。多国籍企業の海外子会社を親会社から独立した企業とみなし、多様な使用料や費用を子会社に支払ってタックスヘイブンに利益を移すことを許容しています。2016年10月の本紙のインタビューでTJNのジョン・クリステンセン代表(当時)はこう断言しました。

 「現行の課税方式は税逃れを放任し、支援するように設計されているのです」

社会制度全体に

 TJNの声明によれば、「パラダイス文書」は金融の秘密の領域を暴く過去最大の情報流出です。文書が示すのは、税逃れがさまつな活動ではないことです。現代の社会制度全体の問題となっています。社会保障と教育の制度をむしばみ、格差と腐敗を広げており、最貧国に住む貧しい人びとを苦しめています。

 TJNのアレックス・コブハム代表は次のようなコメントを発表しました。

 「文書は税逃れや汚職のシステムの本質を示している。巨大な法律事務所や銀行、会計事務所が国際金融の秘密を売っているのである」

 「だからTJNは世界的な対応を心から求める。世界のリーダーたちはこの機会をとらえて国連で会議を開き、金融の秘密と税逃れを永久に終わらせる方策に同意する必要がある。私たち世界の市民は、自国の議員を通じてこのことを要求しなければならない」

 中略
パラダイス文書に載る主な大企業と著名人 
・アップル アップルビーにタックスヘイブンでの子会社設立を相談
・ナイキ ロゴの商標権を持つ子会社をタックスヘイブンに設立し、商品の販売利益を移して税逃れ
・米国のウィルバー・ロス商務長官 タックスヘイブンの法人を介してロシアのプーチン大統領に近いガス会社と取引
・英国のエリザベス女王 英領ケイマン諸島に個人資産を投資
・カナダのジャスティン・トルドー首相の腹心 資金をタックスヘイブンに移して運用
・鳩山由紀夫元首相 英領バミューダ諸島に登記された香港企業の名誉会長に就任
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik17/2017-11-09/2017110903_01_1.html