韓国政府は2日、10兆ウォン(約1兆円)のファンド設立を柱とした創業支援策を発表した。起業に失敗しても元の職場に復帰できる制度の創設や、税制面での支援なども実施し、起業しやすい環境をつくる。韓国の産業は中国などの新興国から激しく追い上げられている。新たな成長エンジンを発掘し、持続的な成長をめざす。

 「韓国ではいつしか、ベンチャーの活力が落ちた。さまざまな人材が革新的、冒険的な創業に挑戦できる環境をつくる」。金東?(キム・ドンヨン)経済副首相兼企画財政相は2日の記者会見で強調した。

 創業支援策の柱は、政府が3年間で10兆ウォンを投じる「革新冒険ファンド」の創設だ。政府が3兆ウォン、民間が7兆ウォンを拠出する。これまでも政府が出資するファンドはあったが、今回の資金規模は既存のファンドの3倍以上とした。

 韓国は米国や中国と比べてリスクマネーがベンチャー企業に行きわたるしくみが弱いとされていた。これまでのベンチャー支援は「広く薄く」だったが、今回は技術志向のスタートアップを中心とし、「グローバルなスター企業」の育成をめざす。

 「創業休職制度」も新たな試みだ。韓国では2000年前後に第1次ベンチャーブームがあり、ネイバーやカカオなどの有力IT(情報技術)企業が生まれた。ただ、それ以降はこれといったベンチャーが育っていない。

 金副首相はその理由を「失敗すると再起が難しく、創業より安定を選ぶようになった」と分析。企業に対し、起業のため退社した社員が失敗したさいは復職できるよう配慮を求める。

 創業休職制度は政府や公立大など公共機関ではすでに実施されているという。これを今回、民間に広げるが、いちど退社した人材を再び受け入れるかを決めるのは企業だ。「政府が強要するわけにはいかない」(韓国政府関係者)のが実情で、どこまで実効性が上がるかは未知数だ。

 このほか、優秀な人材の起業を促すため、ストックオプションの非課税も10年ぶりに再導入する。ベンチャー企業の起業の果実を共有できるよう、自社株出資に対する所得控除限度も引き上げる。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23080850S7A101C1FF2000/