地価や施工費の上昇で首都圏の新築マンション市場に変化が起きている。これまで皇居の南側に位置する港区、目黒区などの城南、世田谷区がある城西エリアが有名人など“セレブ”が比較的多く住むのが好印象で人気が高かった。それが最近は下町風情が残る城東(江東区、江戸川区など)、城北(北区、板橋区など)エリアが安さが魅力で注目を集めている。販売価格の高止まりが続く市場動向を背景に街のブランドにこだわらない予算重視の購入スタイルが定着しつつある。

 ◆「城東・城北」割安感

 「(城西の)世田谷区と(城東の)江東区で、新築マンションを同時販売しているが、同じような間取り、品質、最寄り駅からの距離でも江東区の方が35%ほど割安だ」

 大手デベロッパーのある営業担当者はこう述べ、城東エリアに関心が高まるマンション市場の変化を説く。高所得層の集まる城南、城西エリアに比べ、城東は城北と並んで「下町の風情が残る庶民の街」というイメージだが、その分、価格の安さが魅力だ。これまで人気が集中してきた城南、城西エリアのマンションは販売価格が高騰し、ファミリー層が手を出しにくくなっているという。

 さらに、城東、城北エリアは皇居の東側にある大手町や丸の内など都心のオフィス街へアクセスしやすいのも注目を集める要因となっている。

 住友不動産が販売する総戸数500超の大型マンション「シティテラス東陽町」(東京都江東区)では、「これまでに見たことがない傾向が表れた」(営業担当者)という。契約者動向を分析した結果、30〜40代をターゲットとする物件としては極めて珍しく、共働き世帯が過半数を占めたのだ。

 ◆土地売買も活況

 最寄り駅の東京メトロ「東陽町」まで徒歩10分以内、東京メトロ東西線で東陽町から大手町まで約10分という便利さだ。江東区役所にも近く子育てしやすいことも人気という。

 同社が10月に本格販売を始めた「シティテラス西日暮里ステーションコート」(荒川区)も最寄り駅の「西日暮里」まで徒歩10分圏内、東京メトロ千代田線で西日暮里から大手町までは約10分だ。こうした利便性が受け、2カ月余りで予想を大幅に上回る約1150件の問い合わせがあった。

 また、三井不動産レジデンシャルや大和ハウス工業などが販売する「ザ・ガーデンズ東京王子」(北区、864戸)の販売も好調。最寄り駅の「東十条」まで徒歩5〜10分、JR京浜東北線で東京駅まで約20分という近さが、その原動力となっている。長谷工総合研究所によると、都区部で供給された新築マンションのうち、2017年1〜6月の下町エリアの比率は55.7%。前年同期を3ポイント上回っている。

 城東、城北エリアでは土地の売買も活況だ。大手デベロッパーの土地仕入れ担当者は「もともとマンション開発に適した土地が少ないので、売りに出されると“ワッ”と群がる傾向が加速化している」と打ち明ける。

 長谷工総研の調査によると、17年1〜6月に23区内で供給されたマンションのうち、最寄り駅から徒歩5分以内の物件の割合は53.3%と16年平均を8ポイント近く上回った。城東、城北エリアで人気が高い5分圏内の物件が多く、全体を押し上げたという。

 国土交通省が発表した7月1日時点の基準地価では、都心部住宅地の変動率が鈍化したり低迷したりする中、上昇率の最高地点は荒川区南千住の6.3%で、2位も同区西日暮里の6.1%。北区中里、足立区綾瀬も6.0%と高かった。

 ◆エリアこだわらず

 「この地域に居住したい」。そんな願望を基に周辺の物件を比較して決断するというのがマンション選びの王道だった。しかし、「『この予算内で購入したい』という観点から、エリアと関係なく比較検討するケースが着実に増えている」と大手デベロッパーの営業担当者は指摘する。

 2020年東京五輪・パラリンピックに向けて23区内の新築マンションの価格は当面高止まりするとみられ、街のブランドにこだわらないマンション購入希望者の動きは活発化しそうだ。
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