スーパー、百貨店、外食などの流通サービス業、食品メーカー、消費者団体など551の企業・団体で構成する国民生活産業・消費者団体連合会(生団連)が10月22日の衆議院選挙に向け、「財政・予算制度改革についての提言」を各党に示した。生団連会長でゼンショーホールディングス会長兼社長の小川賢太郎氏にその狙いを聞いた。


――提言は「税金のムダ遣いへの監視、分析の強化」を求めています。

為政者はつねに「1000兆円の借金を抱えて大変だ。増税しなくては」と言っている。増税そのものに反対するわけではないが、主権者である国民の視点からは税金がどう使われているのか、ちっともわからない。増税が必要だというのなら、税金の使われ方をしっかり「見える化」したうえで、それを土台に国民的な議論をすべきだろう。2012年の自民党、公明党、民主党(当時)による3党合意では「消費税率10%までの増税と社会保障の一体改革」で合意したわけだが、いつのまにか「増税ありき」になっており、国民に選択肢がなかった。

「社会保障の一体改革」もどこかへ行ってしまった感がある。「消費税を10%にすれば、社会保障がきちんと機能する」というのなら、国民も納得すると思うが、今のままでは増税しても、社会保障がどうなるかわからない。

国も民間と同様の会計原則を入れるべき

――「財政法を改正して財政責任法とし、独立財政機関を設立せよ」とも訴えています。

現在の財政法には肝心の「目的」がない。欧州諸国のように3〜4年の中期で財政目標を明確に示し、その達成度合いを年に2度は開示すべきだ。われわれ、民間企業は四半期に一度、貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)を開示している。民間に開示を求めるなら、国も開示すべきではないか。

そもそも国の会計は「大福帳」で、BSにもPLにもなっていない。これでは国民に、税金がどう使われているかを示すことができない。財政の透明性を実現するつもりがあるなら、民間と同じ会計原則を入れるべきだ。

年に2度の「決算」を評価するのが「独立財政機関」だ。公共政策の専門家、民間企業の経営者なども入れて国会内に設置し、独立の立場で検証をする。現状国会の予算委員会では予算について専門的かつ緻密な議論が行われているようには見えない。

―今回の選挙ではアベノミクスに対する評価も争点になる。株価や雇用の統計は改善しているが、国民には景気回復の実感が薄いのでは。

それはマスコミが作り出しているイメージではないか。インターネットのアンケートなどを見ていると、若い世代の4分の3は「今のままでいい」と現状に満足しているようだ。それでいいとは思わないが、「格差、格差」と騒ぎ立てるメディアの論調にも強烈な違和感がある。これは、いわば日本における「ヒラリー現象」だ。先の米国大統領選でヒラリー・クリントンは「格差をなくそう」と呼びかけたが、米国民の多くは「格差はいけないと言っているあなたこそ特権階級ではないのか」と白けてしまった。それと同じ状態だ。

よく日本社会の上部構造は「政官財のトライアングル」と言われるが、財のビジネスは社会における下部構造。本当の上部構造は「政官マスコミ」だと思う。この国をよくするには、記者クラブ制廃止を含めたわが国上部構造の抜本的構造改革が必要だ。

国家資本主義は通用しない

――日本経済の問題点はどこにあるか。

国家資本主義という勝ちパターンが通用しなくなった点にある。日本では1941年に岸信介を始めとする満州経済人脈が、ソ連の5カ年計画を下敷きとする計画経済を始めた。終戦後も、「戦時経済」が「復興経済」と呼び替えられ、財務省(旧大蔵省)や経産省(旧通産省)が主導する国家資本主義が続いた。

それが悪かったと言っているのではない。日本の戦後復興、高度経済成長は国家資本主義の輝かしい勝利だった。しかし、いまやその勝ちパターンが通用しない。日本の誇る優良トップメーカーといわれた大企業でも次々と問題が起こっている。国家資本主義や護送船団では、もう成長は期待できない。

一方で、今度はゼンショーグループや、ファーストリテイリング、ニトリ、ソフトバンクといった流通サービス産業が激烈な国際競争に挑んでいる。かつてドメスティックだった日本の流通サービス産業は、いまや世界で揉まれ、日々、強くなっている。国家資本主義から抜け出すための新陳代謝が起こっているわけだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/193712