「シンギュラリティ」という概念で有名になったレイ・カーツワイルはいま、グーグルでメール返信文の自動作成機能を開発している。その最終的な目標は、なんと「人間並みに言語を理解できるAI」の開発だった。その“野望”について、カーツワイルが語る。

カーツワイルらがつくっているのは、「スマートリプライ」と呼ばれるGmailモバイルアプリの機能だ。返信メールを作成するユーザーに3種類の返信文を提案し、タップ操作で文章を選択できるようにする。スマートリプライは、5月に英語版Gmailの全ユーザーに提供されたあと、7月にはスペイン語ユーザーにも提供された。

作成される返信文は、「月曜日にやろう」「イェイ!それはすばらしい!」「また来週」といった短い文章が多いが、それでも十分に役立つ(もちろん、送信前に文章を編集できる)。カーツワイルはこの機能について、「AIが人間の知能とうまく連携した素晴らしい例です」と語っている。

彼のチームは現在、スマートリプライ機能を強化し、もっと複雑な文章を最初から提案できるようにする実験を行っているところだ。たとえば、「もちろん、パーティーに行くのを楽しみにしてるよ!」という文章を入力してから「Continue」(続き)ボタンをクリックすると、「何か持っていくものある?」といった文章を追加できるようになるかもしれない。

カーツワイルは、ユーザーが文章を入力したら、そのあとに続く文章をAIがいつでも提案できるようにしたいと考えている。「文章をどのように完成させるのか提案することで、ドキュメントやメールの作成を支援してくれるテクノロジーが登場するかもしれません」とカーツワイルは語る。

カーツワイルはさらに先を見据えている。彼いわく、スマートリプライは彼のグループが手がけている本来のプロジェクトにとって、目に見える最初の成果に過ぎない。「Kona」というコード名をもつプロジェクトでカーツワイルたちが目指しているのは、われわれ人間と同じくらい流暢に言語を操るソフトウェアを開発することだ。

「人間並みとまでは言いませんが、われわれはいずれその目標を達成できると考えています」と、カーツワイルは語る。彼の言うことは、信じるに値するだろうか。それを判断するには、カーツワイルがこれまでに、いかに人間の知能の働きに関する謎を解き明かしてきたかについて考える必要がある。

グーグルにカーツワイルの理論をもたらす
グーグルの共同創業者ラリー・ペイジは、2期目のCEOを務めていた2011年から2013年にかけて、いくつかの驚くべき構想を進めていた。ロボット企業の買収、アンチエイジングを研究する新部門の立ち上げ、不幸な結果に終わったバージ船建設プロジェクトなどだ。そして、2012年にレイ・カーツワイルをグーグルに招いたことも、物議を醸したペイジの企てのひとつだった。

当時のグーグルは、機械学習やAIの分野で大きな影響力をもつ思想家たちをすでに迎え入れていた。また、新しい製品を動かす機械学習システムの開発に携わるエンジニアを次々と採用していた。そのなかでカーツワイルは、人が自分の精神をサイバー空間にアップロードするようになるという奇妙な未来を予測した著書で有名になった人物だ。研究や今日の仕事に役立つAIシステムの開発で名を馳せたわけではない。

だがカーツワイルの話によれば、その本がグーグルで働くきっかけのひとつになったという。ペイジはカーツワイルを本社に招き、当時間もなく刊行予定だったカーツワイルの著作『How to Create a Mind』に書かれていたアイデアについて話し合った。2012年に出版されたこの本は、大脳新皮質の働きに関するカーツワイルの理論をまとめたものだ。大脳新皮質は脳の外側にある部位で、人間の知能の中核を成している。

「簡単に言えば、ペイジがわたしを採用したのは、わたしの理論をグーグルにもたらすためでした」とカーツワイルは振り返った。「このモデルを機械学習に適用すれば、言語を非常に深く理解できるようになるとわたしは主張したのです」

カーツワイルの理論では、大脳新皮質は多くの回路の繰り返しで構成されている。情報のパターンを認識する能力をもつ小さな回路が、階層状に積み重ねられているというのだ。カーツワイルによれば、それほど高度な機能をもたないモジュールがたくさん集まることで、抽象的な処理を行う能力や人間の知能を特徴づける論理的思考能力を実現している。

以下ソース
https://wired.jp/2017/09/21/what-is-ray-kurzweil-up-to-at-google/