https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59957710U0A600C2EA2000/
米政権、軍動員で混乱 政治利用に懸念強まる
2020/6/4 11:30

【ワシントン=中村亮】トランプ米大統領が全米に広がる抗議デモに対して検討する連邦軍
動員をめぐり政権内の混乱が表面化した。エスパー国防長官は3日、首都ワシントン近郊に
集めた連邦軍の一部退散を命じたが即座に撤回した。デモ隊に対する軍の威圧に固執する
トランプ大統領の意向に応じたとみられる。「強い指導者」を演出したいトランプ氏が軍
を政治利用しているとの懸念が強まっている。

「(11月の大統領)選挙が近づき、国防総省が政治から距離を置くことがとても難しい」。
エスパー氏は3日の記者会見でこう漏らした。トランプ氏がデモ暴徒化を抑えるため自らの
指揮下にある連邦軍の動員を辞さず強硬姿勢を貫いていることを念頭に置く。エスパー氏が
現時点で軍動員に反対する意向を示したのは米軍がトランプ氏の大統領再選を支援している
とみなされるのを避ける狙いだった。

だが行動が伴わない。AP通信によるとエスパー氏は3日午前、首都ワシントン近郊に集めた
米兵のうち200人を拠点基地に戻るよう命じたが、その後にホワイトハウスを訪れると翻意。
首都近郊に残るよう指示した。マクナニー大統領報道官は同日の記者会見で「トランプ氏が
軍動員を決める唯一の権限を持つ」と重ねて指摘しており、武力誇示にこだわるトランプ氏
に押し切られたとみられる。

元国防総省高官は「国防長官が米兵配置に関する決定を数時間で撤回するのは極めて異例だ」
と話した。「米軍の政治利用に反対する意向を示したエスパー氏の本気度に疑いを持たざる
を得ない」と指摘した。トランプ氏は3日、「法と秩序!」とツイッターに書き込み、デモ隊
の暴徒化に対して厳しく対処することを改めて強調した。

国防総省にとっては連邦軍の国内動員はハードルが高い。連邦軍は海外派遣を想定し敵の兵
士や戦闘員の殺害を前提に訓練しており、原則として国内の警察活動の後方支援などを想定
していない。多くの州知事が動員済みの州兵は暴動鎮圧を主要任務としており連邦軍よりも
適任とみる。州兵は40万人程度の動員の余地が残っている。