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石油のたそがれ招く市場崩壊 増産競争のツケ
編集委員 松尾博文 編集委員
2020/4/21 12:30日本経済新聞 電子版

米原油市場で先物価格が史上初めて、買い手がつかない「マイナス取引」となった。5月
期近物に限る「瞬間風速」とはいえ、産油国の増産競争は市場の崩壊を招いた。出口の
見えない供給過剰は、新型コロナウイルス危機が終息しても、石油の将来に禍根を残す
ことになりかねない。

米原油市場で起きた前代未聞の投げ売りの原因は、米国内の石油貯蔵能力が限界に近づい
ていることだ。未曽有の供給過剰が背景にある。
国際エネルギー機関(IEA)が15日に発表した最新の石油市場月報によれば、4月の需要は
前年同月に比べ日量2900万バレル減少する。供給量の3分の1近い量だ。5月も2600万バレル
減少し、2020年後半に需要が持ち直しても、年間の需要は前年比で930万バレル減る。

需要減は直接的には新型コロナの感染拡大による経済活動の停滞が原因だが、暴落を加速
させたのはサウジアラビアやロシアなど産油国が4月から始めた増産競争だ。トランプ米
大統領が介入する形で慌てて日量970万バレルの減産を決めたが、市場は供給過剰の是正
には力不足とみる。

米国やカナダなど石油輸出国機構(OPEC)以外の産油国による減産や、消費国での戦略備
蓄積み上げなども浮上しているが、実効性は見通せない。打つ手が限られているのが実情だ。

日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員は「まずは新型コロナが安定化・終息に向
かう動きが明確に見え、それに応じて世界経済に少しでも明かりが見えることが重要だ。
あとは産油国がもう一度、減産を深掘りするしかない」と指摘する。

産油国の判断ミスが招いたツケは大きい。帝京平成大学の須藤繁教授は「原油価格の暴落
はサウジの価格政策の失敗以外の何物でもない。明確なゲームプランがないまま、価格戦
略を発動した」と語る。