【ソウル=鈴木壮太郎】

韓国の2019年1〜3月期の実質成長率が前期比0.3%減と、予想外のマイナス成長に転落した。輸出は半導体をはじめ主力製品が総崩れの状態で、設備投資にも急ブレーキがかかった。韓国政府は補正予算の編成などで景気の下支えを狙うが、回復が遅れれば文在寅(ムン・ジェイン)政権の経済政策への批判が強まるのは避けられない。

韓国政府は25日、関係閣僚を緊急招集した。洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相兼企画財政相は「世界経済が当初の予想より大きく鈍化している」と説明。閣僚らに「あらゆる政策を動員し、成長率目標の達成を」と発破をかけた。

マイナス成長となった主因は名目GDP(国内総生産)の4割強を占める輸出の落ち込みだ。3月の輸出額は前年同月比8%減で、4カ月連続で減少した。輸出の2割を占める主力の半導体は17%減。他にも自動車が1%、鉄鋼が5%、スマートフォンなど無線通信機器が32%それぞれ減った。

背景には中国企業の台頭もある。韓国経済の屋台骨であるサムスン電子とLGディスプレーは1〜3月期、ディスプレー事業がそろって赤字に転落した。中国勢の増産で価格が下落。収益を圧迫した。スマホで世界シェア首位のサムスンは華為技術(ファーウェイ)など中国勢の伸長で中国でのシェアをほぼ失った。

輸出の不振で企業は先行きへの不透明感を強め、設備投資を絞っている。1〜3月期は10.8%減と、通貨危機に見舞われた1998年1〜3月期(24.8%減)に次ぐ大幅なマイナスとなった。

輸出と設備投資の不振で企業業績が悪化すれば影響は雇用に及び、個人消費を冷やす悪循環を招きかねない。危機感を強めた韓国政府は25日、総額6兆7000億ウォン(約6500億円)の補正予算案を国会に提出した。財政支出の拡大で、景気を下支えする狙いだ。

17年5月の文政権発足後、韓国の成長率は鈍化している。韓国銀行(中央銀行)による19年の成長率見通しは1年間に4回下方修正され、直近では2.5%まで下がった。最低賃金の2年連続の2桁引き上げや残業の制限など分配重視の政策が企業の活力を奪っているとの不満は経営側に強い。

洪副首相は2.6〜2.7%とする韓国政府の成長目標の達成に「全力を傾注する」と強調した。ただ「この規模の補正予算では力不足だ」(KB証券のアナリスト)との声が多い。保守系野党の自由韓国党は25日「経済の失敗は文政権の間違った政策が原因だ」と文政権を強く批判した。経済の低迷が続けば、来年4月の総選挙に影響を及ぼすのは必至だ。


2019/4/25 16:34 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44191300V20C19A4910M00/