33のつづき

 これを受けて、最初に電話を受けた新聞記者と連絡をとり、減災館については安全上の問題は無いと判断していることを説明しました。

メディアとのやり取り
 減災館は、ダンパーを直接見れること、社会に開かれた建物であることから、メディア各社から次々と問い合わせがありました。17日の朝には、ほぼすべてのテレビ局、新聞社から取材依頼がありまし
た。そこで、17日11時ごろに減災館に集まってもらい、実際のダンパーを前に、順番に質問に答えながら解説しました。主な質問内容は、耐震・免震・制振の違い、免震装置の種類と役割、ダンパーの種
類と役割、ダンパーの性能の違いが建物の揺れ方や安全性に与える影響、ダンパーの性能変動を考慮した設計、危険性の程度、などでした。さらに、ダンパーのトップメーカーとしての倫理的問題、日本
の技術への信頼喪失による社会的影響などにも話が及びました。重要なことなので、これらに対してできるだけ丁寧に答えました。その後も、様々な問い合わせがあり、19日には、海外メディアからの問
い合わせもありました。質問内容は、審査など制度の問題、取り替え方法の難しさや期間、企業や技術者の倫理の問題、社会的背景などに変わってきました。

免震・制振とダンパーの役割
 免震は、建物の下に免震装置を設置して地震の揺れが建物に伝わらないようにするものです。多くの場合は、建物と基礎の間に免震装置を置いた基礎免震が使われ、免震部分は地下にあって見えま
せん。建物を宙に浮かせるのが理想的な免震ですが、建物の重さを支える必要がありますから、上下には硬く水平には軟らかい積層ゴムで建物を支えるのが一般です。これによって、地盤の揺れに比
べて建物の周期を長周期にして共振を避け、揺れにくくします。ですが、地盤の揺れ方によっては建物が大きく揺れる場合もあります。それに備えて、揺れが早く減衰するようにダンパーを設置します。ダ
ンパーには様々な種類があります。鉛ダンパー、鋼材ダンパー、摩擦ダンパー、オイルダンパーなどで、通常これらを組み合わせて使います。オイルダンパーは水鉄砲のようなもので、水の代わりにオイ
ルを使います。自動車の揺れを抑えるショックアブソーバーを大型にしたものです。
 一方、制振は、建物そのものの揺れを早く減衰させるために、建物に付加的に減衰の仕組みを入れたもので、多くの場合、高層ビルに使われます。高層ビルは減衰が小さく、共振すると大きく揺れが増
幅するので、最近では長周期地震動対策用に制振を使うのが一般的です。制振には、機械の制御のように力を加えて制御するアクティブ制振と、建物に付加的な減衰装置を入れたパッシブ制振がありま
すが、多くはパッシブ制振です。風用には質量同調ダンパー(TMD)が屋上に設置されることが多いですが、地震用の制振には、壁の中や、エレベータシャフトの中などにダンパーが設置されます。その一
つがオイルダンパーです。

免震装置の大臣認定と免震建物の設計
 免震装置(法的には免震材料と言う)は、建築基準法に基づいて、国土交通大臣が指定した指定性能評価機関が大臣に代わって性能評価を行い、大臣が認定します。性能評価では、装置の特性など
について、装置メーカーが提出した実験データなどに基づき審査をし、その妥当性を判断すると共に、材料の製品ばらつきや、温度による特性の変化、経年的な変化などについて許容値を定めます。建
築構造設計者は、免震材料の特性の変動幅を考慮しつつ、建物の設計を行います。このため、免震装置の性能が設計値とある程度異なっていても、安全上の問題は生じにくいと言えます。
 免震建物の設計には、国土交通省の告示に規定された方法として、限界耐力計算法か、時刻歴応答解析が使われます。計算の妥当性は指定性能評価機関などで審査されます。多くの場合は時刻歴応
答解析で建物の振動応答を計算します。建物の応答は、入力する地震動の特性によって大きく変動するため、複数の地震動に対して計算をします。その際に、積層ゴムの硬さやダンパーの減衰の変動を
考慮して複数のケースを計算します。そして、建物の設計に当たっては、これらの振動応答を包絡した値に対して安全性を確認します。したがって、ある程度ゆとりを持って設計していることになります。そ
れゆえ、安全性については大きな問題は無いと判断されているのだと思われます。
 ちなみに、指定性能評価機関の評価には、免震装置や免震設計に詳しい学識経験者が当たっています。しかし、評価機関の増加や、経験豊富な学識経験者の減少と高齢化、現役の学識経験者の多忙
さなどから、審査制度の維持も課題になりつつあるように感じます。