ダンパー改ざん、不正は許されないが安全への過度な心配は不要、技術への信頼失墜は重大
https://news.yahoo.co.jp/byline/fukuwanobuo/20181020-00101125/

福和伸夫 | 名古屋大学減災連携研究センター、センター長・教授
10/20(土) 6:54
 私は、ゼネコンで10年間勤務し、その間に、免震研究に少し携わりました。大学に異動して、阪神・淡路大震災以降は、免震建物の安全審査に多数関わり、免震建物の実験や解析、装置の開発にも関わ
りました。そして、今は、減災館という免震建物の中で勤務しています。この建物にも不正の疑いがあるダンパーが使われています。当事者の一人として、現状について報告します。

驚いた第一報
 10月16日の午後3時半頃、旧知の新聞記者から携帯に電話がありました。朝、別件で会っていたので、どうしたのかと思ったら、「先生の建物のダンパーはどこのですか?」と聞いてきます。電話の意図
が分からず、「カヤバだけど、会議中なので後で」、とそのまま電話を切りました。すると、ほぼ同時に、同僚の先生からメールが入り、ダンパーに関して国土交通省の発表が報じられていると連絡が入り、
ホームページをみてビックリしました。ダンパーの開発者たちは本当に優秀な技術者で、長周期地震動対策について議論をしていた人たちです。思わず「えっ!まさか!」と言ってしまいました。超高層ビ
ルの長周期長時間地震動への共振対策や、長周期パルスに対する免震建物の過大変形抑止など、先頭で課題解決に当たってくれていた人たちです。にわかに信じられず、忸怩たる思いと残念な気持ち
で一杯でした。そして、この直後から、免震に関わる研究者として、開発や審査に携わった技術者として、当該施設のユーザーとして、複数の免震建物を有する大学内の人間として、様々なコメントを求め
られ、翻弄されながら対応することになりました。

名古屋大学減災館
 減災館は、減災研究拠点、啓発・教育拠点、災害対応拠点として2014年に建設した免震建物です。減災館の中には、減災研究を進める減災連携研究センター、大学の災害対策を担う災害対策室、地域
の安全を担うあいち・なごや強靭化共創センターが入居しています。減災館は、平時は、建物そのものを耐震研究の対象として活用しつつ、1〜2階を広く社会に開放して年間1万5千人くらいの来館者を迎
えています。また、大学や地域の災害対応拠点としての機能を果たすため、免震を採用し、様々な災害対応設備を備えています。
 この建物は、地下1階、地上5階、地下と屋上に免震装置があるダブル免震構造で、ショートケーキのような形をしています(屋上の5階の免震装置は通常は固定されており振動実験時だけ免震化しま
す)。地下の免震装置は、積層ゴム5基、オイルダンパー8基、直動転がり支承9基で、約6000トンの建物を支えています。
 屋上にはアクチュエータが、地下には水平ジャッキが備えてあり、屋上の免震部を揺することで建物全体を振動させたり、地下のジャッキで建物を引っ張りジャッキを開放することで建物を振動させるこ
とができます。建物そのものが振動実験の場で、この環境を利用して実物建物の免震装置の特性を把握できます。地下の免震装置は、ガラスを通して周辺道路から見ることができ、多くの人たちが巨大
な装置を見学にきます。詳細は減災館のホームページをご覧ください。建物が揺れる様子の動画も見ることができます。

第一報を受けて
 減災館の免震設計には私も関わりましたので、様々な設計資料を所有しています。また、減災館には、色々な加力装置やセンサーが設置してあり、地震観測もしています。このため、地震観測や振動
実験で、ダンパーなどの免震装置の特性について多くの計測データを取得しています。
 そこで、国交省の公表資料を確認した後、同僚の先生と、減災館の設計図面や免震構造評定資料を調べました。そうしたら、減災館のオイルダンパーは問題になっている型番でした。そこで、すぐに建
築設計事務所の構造設計者に連絡し、対象物件に該当していることを確認しました。また、過去の実験データを調べ、減災館のダンパーについては安全上特段問題がないと判断しました。今のところ、メ
ーカーからは正式に連絡は受けていません。