2018-09-25
(写真)
(追悼号となった『ガロ』1992年8月号)


1.はじめに

かつて自閉症は「治療法も分かっていない現代の難病で18歳未満の自閉症児は1万人に対して約2人」(『読売新聞』1977年4月16日付 朝刊)と説明されていたが、その症状には軽微なものから重度なものまで連続性(スペクトラム)があり、
後にこれらは「自閉症スペクトラム障害」として一本化された。このため広義の意味での自閉症児(者)の割合は年々急増し、2012年に文部科学省が全国の小中学校で行った調査では、
発達障害の可能性がある児童・生徒の割合は15人に約1人にまで迫ってきている。つまり今まで多くの人が自分と無縁だと感じていた自閉症や発達障害は決して他人事ではなくなってきているのが現状である。

今回扱う石川元著『隠蔽された障害 マンガ家・山田花子』(岩波書店、2001年9月)は脳の障害(発達障害)から、自殺した漫画家の山田花子が生前抱えていた「生きづらさ」を精神医学的な視点で本格的に分析した臨床研究であり、
人付き合いが不得意で良好な人間関係が築けないという問題を「脳」の障害でなく「こころ」の問題として「隠蔽」してきてしまった社会に対する一つの提言の書でもある。

このレポートでは、精神科医の筆者・石川元の主張を軸に第2節で山田の幼年期から自殺に至るまで全生涯の軌跡を辿り、第3節で山田の障害について検討する。
第4節では山田の漫画作品から「表問題児」と「裏問題児」というキーワードを導いて山田の苦悩に迫り、第5節で本書の問題点について総括する。



2.山田花子の生涯

山田花子は1987年に『ヤングマガジン』の「ちばてつや賞」に入選し、同誌で華々しくデビューしたが、編集者との軋轢が絶えず連載は終了、その後はマイナー誌の『ガロ』を中心に活動していたが、1992年春に精神分裂病(現在の統合失調症)と診断され、
2カ月半ほど入院、同年5月23日に退院したが、翌24日夕方に高層団地11階から投身自殺した。生前遺した単行本はたった2冊しかなく、新聞の訃報でも「漫画家」ではなく「多摩市内の無職A子さん」として報じられた。

山田花子の名前が知れ渡る契機となったのは、山田の死後刊行され、ミリオンセラーとなった『完全自殺マニュアル』(鶴見済、太田出版)において「投身自殺」の例で山田が取り上げられたことで若年層を中心に注目され始めたことである。
その後、生前の日記やメモをまとめた『自殺直前日記』(父親が編集した私家版『山田花子日記』を再編集したもの。1996年に太田出版より刊行され、
現在は復刻版が鉄人社より出版されている)はベストセラーとなった。この節では山田の生涯について以下に詳しく述べることにする。

     ===== 後略 =====
全文は下記URLで
http://kougasetumei.hatenablog.com/entry/inpeisaretashogai