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イラク戦争はイラクが大量破壊兵器を隠しているという理由でアメリカがイラクに侵攻したことから始まった。2003年の3月のことである。

その裏には9.11以降の不安と、石油問題や宗教問題が …、直接戦地で戦ったのは、大半が貧困家庭出身の若い志願兵だった。
第16歩兵連帯第2大隊の兵士の 平 均 年 齢 は「 2 0 歳 」だった。

そして戦争が終わり、兵士は英雄に …。ところが、身体的な損傷はなくても、内部が崩壊した兵士たちが大勢いることがわかった。
派兵された兵士はおよそ200万人、そのうち50万人がPTSD(心的外傷後ストレス障害)とTBI(外傷性脳損傷)に苦しんでいる。
残された問題は、精神的な傷を負った兵士たちをどのようにして治していくのか、果たして治せるのか、というものだった。

本書に登場するのは、… 兵士とその家族である。そのうちの一人はすでに戦死している。生き残った者たちは重い精神的ストレス …。
妻たちは「戦争に行く前はいい人だったのに、帰還後は別人になっていた」と語る。戦争で何があったのか、どうしてそうなったのか。

彼らは爆弾の破裂による後遺症と敵兵を殺したことによる精神的打撃によって自尊心を失い、悪夢を見、怒りを抑えきれず、
眠れず、薬物やアルコールに依存し、うつ病を発症し、自傷行為に走り、ついには自殺を考えるようになる。

そうなったのは自分のせいだ、と彼らは思っている。自分が弱くて脆いからだと思っている。
まわりからいくら、「あなたのせいじゃない、戦争のせいなのだ」と言われても、彼らの自責の念と戦争の記憶は薄れることはない。

そうなったのは、彼らがイラクの最も激しい地域に、偶然配属されたからにほからなないのだ。
ワシントンでは自殺防止会議が毎月開かれ、自殺した兵士の数とその詳細が検討され、そこから何らかの教訓を得ようとしている。

… 自殺者が減る気配はない。

軍が巨費を投じて作った医療施設は一杯で入れない者が大勢いる。そして収容者の多くは過剰な投薬を受けている。
毎年240人以上の帰還兵が自殺を遂げているという事実は、(自殺を企てた者はその十倍と言われている)限りなく重い。
なぜ、帰還兵は自殺し続けるのか。
 
 … アメリカに限ったことではない。

日本においても、イラク支援のため、2003年から2009年までの5年間で、延べ1万人の自衛隊員が派遣された。
NHK「クローズアップ現代」の「イラク派遣 10年の真実」では、イラクから帰還後に28人の自衛隊員が自殺したことを報じた。
自殺にいたらないまでも、PTSDによる睡眠障害、ストレス障害に苦しむ隊員は全体の1割から3割にのぼるとされる。
非戦闘地帯にいて、戦争に直接かかわらなかった隊員にすらこのような影響が出ているのである。
そして日本では、そうした隊員たちに対する支援のシステムができているとは言い難いのが現実だ。

また「ニューズウィーク」に、アメリカでは帰還兵の自殺が毎日18人に上るという記事が出た。
イラク帰還兵の自殺は氷山の一角に過ぎない。

自殺ホットラインにかかってきた電話は、2011年では16万4千件、2300件が現役の兵士からで1万2千件が復員軍人の友人や家族から。

イラク戦争に参加したイギリスやポーランドでも、同じようなことが起きていると思って間違いないだろう。
戦争が終わっても、戦争がもたらした傷に終わりはない。…

(帰還兵はなぜ自殺するのか デイヂィッド・フィンケル著)