アメリカ
特にアメリカでは、ペドフィリアは単なる性的な異常者として見られているだけではない。実際に子供への性犯罪を犯したかどうかを問わず、その性的嗜好を持っているだけで「絶対的な悪」として見られ、極めて強い嫌悪感を向けられている。「ペドファイル」という怪物が、無垢で純粋な子供たちを喰らうゴシック物語として社会から認識されており、絶対的な悪と絶対的な無垢しかそこでは存在しない。戦時中の日系アメリカ人・赤狩り時代の共産主義支持者・現代のテロリスト支持者を連想させるように、実際の行動を問わず、ただ存在するだけで敵であり、それを庇うような発言をする者も敵として見なされている。合理的な判断は無く、「ペドファイル」の嗜好・思想・存在自体が悪であり、罪として扱われている[34]。

1994年、性犯罪の前科がある者が引っ越してくる場合、周辺住民にその情報が知らされるミーガン法がニュージャージー州で施行された[33]。さらにラディカルな措置として、刑期を終えた未成年強姦者や小児猥褻犯を強制収容する施設がある[33][35][36]。正しくはチャイルド・マレスター収容所だが、ペドフィリア収容所と広く誤解されている。

1998年、3人の心理学者がアメリカ心理学協会(APA)の学術雑誌『Psychological Bulletin』に、「大人との未成年者の性行為は必ずしも害にはならない。強要・ 強制される行為とそうでないものとを分けて考える必要がある」という内容の論文を発表したことに対して、連邦議会の両院がその論文を強く非難する決議案を可決した事実がある。この決議案では「子供は神からの授かり物」で 「その保護は親と社会の神聖なる義務である」 と述べられ、独立した調査により論文に学術的な問題はないと判断されたにもかかわらず、その内容は連邦議会によって否定・批判された。下院での票数は賛成355票反対0票、上院では100対0であった。ミシガン大学教授のブライアン・キムバトラー(Bryan Kim-Butler)は、これがアメリカの歴史上で連邦議会が科学を否定する初めての異例の事態であり、アメリカでの子供と性についての議論が、社会的にも政治的にも合理性を失い、単なる感情論と化していることの表れであると指摘している。ペドファイルはそもそも社会の一員として見られていないため、憲法上の権利も当然有さないかのごとくである[34]。