[危険なストーカーのリスク因子] 
逮捕されたストーカー犯312人のうちからランダムに 78 人を選別し、9 年間追跡して、再犯した者とそうでない者、
暴力行為に及んだものとそうでない者を比較した。期間中 77% が再犯に及び、その 56% は別の被害者へのストーカー
事案であった。また、粗暴再犯に至った者は 33% だった。

これらを分析した結果、ストーカーに限らず全犯罪の再犯に関連するリスク因子は、若年であること、犯罪歴、精神障害
などであった。粗暴再犯に関連するリスク因子は、若年であること、犯罪歴、物質乱用歴などであった。


また、元恋人に対してストーカー行為を行った者や元恋人に「拒絶された」ことが動機であるストーカーは、
より粗暴行為に出やすいこともわかった。
過去の様々な研究をレビューし、同様にストーカーのリスク因子をまとめている。


その結果、ストーカーの約半分は「2〜3日」か長くても「2週間以内」にストーカー行為をやめることがわかった。
その一方で、「2週間を超えた場合は数か月」にわたることが多く、粗暴行動に出やすいこともわかった。


このように、長期化、粗暴化するストーカーのリスク因子としては、パーソナリティ障害、物質乱用、
30 歳未満であること、高卒未満であること、脅しなどの行為の存在、犯罪歴などが見出されている。

ほかにも粗暴行為の前歴があることが、最大のリスク因子である。
危険なストーカーには精神障害が比較的高い割合で見出されるとし、リスク因子の 1 つであることを示唆している。


心理学的リスク因子としては、洞察力欠如、拒絶的なアタッチメントスタイル、共感性欠如、易怒性、社会的スキル不足、
逸脱した性的嗜好、言語能力不足などが挙げられている。

まとめると、危険で粗暴行為に出やすいストーカーの特徴として
若年であること、犯罪歴、物質乱用(薬、アルコールを含む)、教育程度が低いこと、拒絶が動機であること、
交際時から粗暴な言動が見られたこと、パーソナリティ障害やパーソナリティ上の問題
(不適応的アタッチメントスタイル、共感性欠如など)、社会的スキル不足などが挙げられ、
これらが危険なストーカーと関連するリスク因子であるといえる。

さらに、これらのリスク因子を有している者は、ストーカー行為が長期化しやすく、
「2 週間以上」にわたって反復されるときは暴力の危険がさらに増大する。
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[治療の原則]

先にも述べたとおり、ほとんどのストーカーは軽微なもので、無視すれば収束する。
一方、危険なストーカーをリスクアセスメントによって選別し、
彼らに対しては、専門的な治療をそのリスクに応じた強度で行うべきだということである。


先に見たとおり、ストーカー犯の多くは数々のスキル不足の問題が指摘されている。
対人スキルや感情統制スキルなど、これらは適切なスキル訓練を実施することで改善が期待できる。

また、必要以上に相手に怒りや恨みを募らせたり、非現実的な期待を抱いたりするのは、
感情統制の問題であると同時に認知の問題でもある。これらの認知変容を図ることも重要な治療目的の1つとなる。
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[おわりに]
ストーカーはときとして重大な被害をもたらし、社会にも大きな不安を与える犯罪である。
しかし、その心理や行動は複雑であり、単なる厳罰化や啓発活動などによって防止することは不可能である。
今後は、これまで以上に科学的エビデンスを用いてより効果的なアセスメントと治療対策を充実していく必要がある。