今日、私は花音がアイドル部を辞めてから初めて彼女に会う。
アイドル部時代も仲は良い方だったから二人して遊びに出かけることは珍しくはなかったものの、メッセージのやり取りはしていたとは言え久しぶりの再会に若干の気まずさを感じていないといえば嘘になる。

『駅についたよ、後ろ見てみて』

LINEの通知を見て、気持ちを落ち着けるためにひと呼吸いれてから振り返る。

「かの……たま、さん……?」

「元気してた? なとりちゃん」

もともと背が低く不健康そうではあったものの、さらにやつれたように見える彼女の見開かれた双眸は、暗いその色とは裏腹に穏やかな笑みをたたえていた。
その前でこれ見よがしに私に向けて翳されたスマートフォンの画面には、私と花音のトーク履歴が表示されていた。
それにそのストラップは──

「私が、もちさんにプレゼントした……」

「そうだったんだ? まあ、今は私の物でもあるんだからどうでもいいよね」

話が見えない。
私が今まで連絡を取っていたのはたまさんだった?
違う、私たち二人しか知らない話だってしていた。

思考を遮るように、たまさんが口を開く。

単純な話だよ──。

「──私、花音と付き合ってるんだ。だからこう言うこと、やめて欲しい」

今の私には花音しかいない。
花音が支えてくれたから今がある。
だからなとりちゃんに花音が取られるんじゃないかって不安になって、そしたら花音が栞桜ちゃんのためならって縁を切ることに合意してくれたんだ。
捨てられたんだよなとりちゃんは。
酷いと思う?
でもなとりちゃんだって私たちを見捨てたんだから、仕方ないよね。
恋人と友達なら、前者の方が大切なのは当たり前だもん。

早口に、けれど恋人との思い出を話すような彼女の語り口は熱を帯びていて、私の知らない二人の時間を否が応にも叩きつけられてしまう。
信じたくはなかった。だけど、二人を傷つけたのは他ならぬ私自身だという負い目から何も言えなくなってしまう。

呆然と立ち尽くす私を他所に、たまさんは「それじゃあね」と次に来た電車に乗って姿を消した。


あれから花音とは連絡が取れていない。
毎日のようにおひるの挨拶をしているけれど、一度たりとも既読がついた試しはない。

半年が過ぎた頃だった。なかば義務感のようなものを感じながら送っていたメッセージに既読がつき、私は思わずお弁当を食べる箸をテーブルに落とした。

『なとりさんですか?花音の母です』

ごめんなさい。
あの子、半年前から寝たきりで、つい昨日亡くなったの。
告別式が明日あるから、良かったら来てくれるとあの子も喜ぶと思うわ。