あの聖夜から一年。
私は麻雀系ライターの仕事をこなしながら、個人vtuberとして活動を続けていた。
皮肉にも、あの悪徳企業での頑張りがたくさんのご縁を呼び、色々な人に助けられながらも今は安定した生活ができている。
執筆に励み、疲れたらエゴサをし、配信でファンと卓を囲み、ツイッターで花音とじゃれ合う。
何者にも邪魔されず、伸び伸びとした毎日。とても充実しているはずなのだが…。
「…なんか足りない気がするんだよなぁ」
こんなに安定した現状の何が不満なんだろう。何が足りない?何が…。
《ロン》
「あー。やっぱ通らないかwだよねーw」
珍しく、あからさまな危険牌を捨てて親っ跳ねを食らった。

今年のクリスマスも天鳳でイベントをやるらしい。その名もvtuber杯。私はその打ち合わせに来ていた。
vtuber界は今、空前の麻雀ブームに沸いている。どうやら先日にじさんじで麻雀大会が開催された影響らしい。
私の本で麻雀を覚えたという声が配信者からもチラホラ上がっており、ちょっと鼻が高い。
私も大会に出るつもりだったが、参加を表明する前に角田さんに優勝者との特別対局を依頼された。

打ち合わせは早々にまとまったが、会わせたい人がいると帰りを引き止められた。
(さっき見かけた近麻の金本さんだろうか?何度も顔合わせしたし違うよな…。)
そんなことを考えていると、角田さんが金本さんを連れて戻ってきた。続けて誰かが部屋に入ってくる。

「“初めまして”、楠栞桜さん?」
聞き覚えのある声だ。それも嫌な覚えの。
「お前は…」
「うわぁぁずっとお会いしたかったんですー!引き合わせてくださってありがとうございます!!」
「花京院…ちえり…」
「ちえりのこと知ってるの??うれしー!!!」
「ちえり最近、夜桜たまちゃんの本のおかげで九段まで上がれたの!少しはたまちゃんに追いついてたらいいな〜???」
「ッ!!…なんでっ、お前がここに…」
「うちが取材するためにお呼びしたんです。彼女の上達が話題だったので、鳳凰卓にチャレンジする企画をやってるんですよ。」
「もう後ろのクズ企業もいませんからね。うちらは麻雀を愛する人の味方ですから。」
「ちえり、麻雀好きとして栞桜さんのこと尊敬してますゆえ〜、大会頑張りたいと思います!」

「いやーわだかまりもあるかと思ってましたが仲良くやれそうですね。今度対談企画なんてどうでしょう?」
「いいですねぇ。彼女らも元々は仲間で、共に被害者なわけですからね。盛り上がるんじゃないですか?」
そんな会話で二人が盛り上がっている隙に、奴はふいに私に耳打ちした。
「待ってな。すぐに優勝して、今度こそあんたに敗北をプレゼントしてやるよ。」

彼女の言葉に私は、動揺よりもゾクゾクとした興奮を覚えていた。
そうだ。私は、戦うことでしか生きられない。張り詰めた緊張の中でしか、生を実感できない。熾烈な争いの果てにしか、己を見いだせない。
高揚感にも似た闘争心が湧き出してくる。
「でもかわいいだけのちえりちゃんに何ができるの?また去年みたいに惨敗だよ?」
「…潰す。」
今年のクリスマスも、どうやら熱くなりそうだ。