深淵との合作に再起を賭けるしりり――――あれ以来、振り向けばいつもそこに深淵の姿があった
今日はいつもとは少し様子が違い、そうして目が合った後に深淵のほうから距離を詰めてきた
「え、と……あの……今日、深ちゃの家でいっしょに……(動画の打ち合わせとか、しない)?」
うつむいたままボソボソ喋るせいで最後はよく聞き取れなかったけれど、大方の意図だけは伝わる
その場はなんとかてきとうに言葉をにごしてかわしたものの、背中を突き刺す深淵の視線が痛い
(どうして勢いとはいえ「合作しよう」なんて言ってしまったんだろう……)と後悔しきりなしりり

放課後。
まるでしりりが校門から一歩踏み出すその瞬間を見計らっていたかのように、
おそらく近辺で身を潜めていたのであろう深淵が現れ、まるで影のように歩調を合わせて付いてくる
「違う。深ちゃの家はこっち……。」
抗うことを許さない強い意志を秘めた背後からの低く、じっとり湿った声に従い続けること十数分…
辿り着いたのはどこにでもありそうなアパートの一室の前
ここにきて初めて深淵はすべり込むようにしてしりりの前に立ち、鍵を差し込んでそのドアを開ける
「狭いところだけど……。」
招じ入れられた室内は意外にも女の子らしく小奇麗にまとまっていて、人並みの家具類も揃っている
(深淵の部屋、か……どんなに荒んだ光景を見ることになるんだろう……)と、綾波の部屋的なアレを
イメージして、妙に気負いながら上がり込んだことのほうがむしろ恥ずかしくなるくらい、ふつうの部屋

ロータイプのPCデスクの前に座りこむふたり
さっそく、作ったばかりの2.5D新素材についてうれしそうに解説を始める深淵
「ね、すごいでしょ?……これ、まだどこにもアップしてないんだよ。今はふたりだけの秘密だね……」
ディスプレイを眺めていた深淵がふいに振り返り、すぐ傍らで動画を眺めていたしりりの顔を見返す
(あれ、深淵ってこんなにかわいかったっけ……)
今にも肩が触れ合いそうな距離から、動画の感想を求めて目を輝かせながらしりりに詰め寄る深淵
顔に垂れ掛かる髪を耳の上にかき上げ、今度こそ本当に頬が触れ合うほど近付いて耳元でささやく
「……ねぇ、深ちゃのMGR素材どう?」
(それに、今日の深淵は……なんかいい匂いがする)

狡猾な策略に嵌り込み、(このまま深淵に落ち込むのも悪くないかな……)と思い始めるしりりだった