(あ、また深淵のやつこっちのぞいてやがる……)
背後を振り返り、電柱の陰から見え隠れする深淵に向かって声を掛けるしりり
「深淵、いるんだろ?ちょっと一緒に歩かねえか?」
気まずそうにソロリと電柱の陰から出て、しりりの少し後ろから歩調を合わせて
付いてくる深淵

「今度さ、俺と『合作』しねえか?」
ふいに足を止めて振り返り、まっすぐ深淵の目を見て話しかけるしりり
「……!?」
いっぱいに見開いた目でしりりの顔を見返しながら後ずさり、驚くべき素早さで
再び電柱の陰に隠れる深淵
「でも、深ちゃたちまだ学生だし……『合体』なんてそんなのまだ早いっていうか」
「バッ!違ぇよ!『合作』だ!『合体』じゃなくて『合作』な?」

「あのさ、最近お前の初期の投稿動画とか見たんだけどさ、お前スパロボとか
好きだよな?そんなんだから『合作』を『合体』なんて聞き間違えるんだってw」
いっこうに距離を縮めようとしない深淵に向かって苦しいフォローをするしりり
しかしそれは意外にも一定の効果を上げたようで、
過去の投稿動画を見られた気恥ずかしさはあるものの、あの人気者のしりりが
自分を気にかけてくれたという嬉しさから、深淵は再びしりりの傍に歩み寄る

「俺も今は色々と苦しい立場だしさ、ここらでいっちょ話題性がある動画出して
注目集めたいわけよ」
「前にれむっふと音MDMで……って、ど゙わぁっ!深淵、お前何やってんだよ!」
その口から「れむっふ」の名が出た瞬間、鞄の中にガサゴソと手を突っ込んで
愛用のオルファを取り出した深淵
慣れた様子でチキチキと刃を繰り出した後、しりりに向かってゾッとするような
笑顔で微笑みかけながら手首にあてがう

「……落ち着け。本当に落ち着いてくれ、いや、マジで(懇願)」
危ういところで深淵の手からカッターを奪い取ることに成功したしりりは
まだ息を荒げて、肩を大きく上下させる深淵をなだめながらなんとか話を続ける

「れむっふとは音MDMで組んだけど伸びはイマイチだったし、にすとはあれ以来
疎遠ってか、なんか声掛けづらくてさ」
「お前MGRの2.5Dとか得意じゃん。今度にすのお株を奪ってMGRoidの音MADを
作ろうと思ってんだけど、お前に動画のほう手伝ってもらおうと思って……」

(「合作」……?私としりり君、二人で作る「愛の結晶」……!)
下腹のあたりを手で押さえてその場にうずくまる深淵、あわてて駆け寄るしりり
「って、おい深淵!大丈夫か?」
「うん、(ちょっと子宮が疼いただけで)大丈夫だから……。やるよ、頑張ろうね」
「え、あ、ああ……ありがとな」
(こいつマジ面倒くせぇ…)と実感して早くも後悔し始めるしりりだった――――。