悪い噂というものは人の悪意によってその真偽が問われることもないまま瞬くうちに広がる
れむちゃからも距離を置かれるようになった今、しりりはそれを身に染みて実感している

……あの目
今朝、教室に入ってきたれむっふに「おら!パンツ見せろ」といつものようにセクハラ攻撃を
仕掛けようとしたとき、当のれむちゃから向けられたその視線は
口から発せられるどんな言葉よりも雄弁にあからさまな嫌悪と侮蔑の感情を物語っていた

よく今日一日、放課後まで逃げ出さずに留まって居られたものだと思う
普段なら軽口を叩いて笑い合う仲間に声を掛けても、皆困ったような笑顔をして離れていく
まるで係わり合いになるのは御免だとばかりに
チヤホヤされるのが当たり前だった人気者のしりりにとって、それは何よりも辛いことだった

ふと何かを思い出したように校庭の片隅に向かって歩き出すしりり
まるで本人の意志を離れたかのように、歩を進めてきたその足の動きがふいに止まる
飼育小屋の前にしゃがみ込み、唯一の話し相手である網の向こうのウサギさんに向かって
しきりに何かを話しかけていた深遠が背後の気配に気付いて振り向く

しりりが次に気が付いたときには、深遠と肩を並べて飼育小屋の前でウサギを眺めていた
二人とも無言のまま、こちらに寄ってきては鼻をヒクヒクさせたり、小屋の奥に戻っては穴を
掘るそぶりを見せたりするウサギたちの様子を眺め続ける
「深ちゃは、しりり君のこと信じてるから。」
前を向いて目を合わせないまま、ためらいがちにそっと呟いた深遠のその声を聞いた瞬間、
しりりの中で何かが弾けた

その場に押し倒され、組み伏せられる深遠
(心のどこかで俺はこいつの庇護者を気取って、そして見下していたのかもしれない……。)
その相手から自分に向けられる憐憫に逆上したしりりの手が、倒れ込んだ拍子にはだけた
スカートの裾から覗く深遠の白い脚を這い上がる
「しりり君はこんなことしない。」
まっすぐにしりりの目を見上げてそう言い切る深遠のまなざしには、その言葉が本心から出た
ものであることを裏付ける強い光が宿っていた

再び飼育小屋の前にしゃがみ込む深遠、その隣で気まずそうに佇むしりり
「あのね、ウサギさんたち聞いて。深ちゃが大切に思ってる人が今、苦境に立たされています。
でも深ちゃはその人がきっとこの苦境を乗り越えてまた元通りの人気者に戻ってくれることを
信じています。」
深遠の肩に置こうと伸ばしかけた手をあわてて引っ込めながら決意を新たにするしりりだった
(また糞みたいなボイドラ作って人気者の座に返り咲いてやるからな……!)

この後、周りから無視され続けてきた深遠の陰キャ特有の悲しみを知ったしりりが造り上げた
新作ボイドラがクッキー☆界隈に新風を巻き起こすことになるのはまた別のお話(第一部完)