「居酒屋 だっしゃ」

昭和の風景が今なお残る下町、立石。各駅停車しか止まらないゆっくりした街だ。
そんな街の路地裏で今日も小さな店に灯りがともる。

店の名は「居酒屋 だっしゃ」

「いらっしゃいませ。」
暖簾をくぐると車椅子に乗った店主の石川典行さん(44)が優しく出迎えてくれた。
「実は僕も昔は配信者だったんですよ。」
彼はお燗をつけながら笑顔で語りだす。

「配信者やってたら体重が増えすぎましてこのざまです。w」
聞けば彼は数万人の視聴者を持つ人気「生主」だったそうだ。
いまは懐かしい「ニコニコ生放送」や「ツイキャス」で放送三昧の毎日を過ごしていた。

そんな彼に転機が訪れたのは32歳の頃。
森ドン殺人未遂で取り消された「ユーザーチャンネル」の復活が決まったのだ。
「でも、それがボタンの掛け違えの始まりでした。」
遠い目をする彼、車いすを動かす手がかすかに震える。
チャンネル会員数が全く伸びない焦り。肝心のニコニコ生放送視聴者からの不支持。
遂には「ただの詐欺師」と呼ばれ、彼は「配信業」としての未来を失った。

「だけど、おかげで気づくことができました。お金や人気なんかよりも大事なものがあるって。」
そんな話をしてるときに白髪頭の箱根軽と呼ばれる元囲いが酒を持ってきた。
「ぼくは運命共同体なんです」と皺だらけの笑顔で話しかけてきた。

配信から身を引いた彼が見つけた幸せ、それは目の前の人を笑顔にすること。
そう思って始めたのがこの店だという。
「この店も配信頑張った結果やもんでさ。」
ガラガラの店舗で車いすのキコキコいう音だけが泣き声のように響いていた。