聖書の「おくぎ」について
主に明治学院大学の聖書和訳年表
http://www.meijigakuin.ac.jp/mgda/bible/history/
と鈴木範久『聖書の日本語―翻訳の歴史』を参考に調べてみました。

おそらく、日本語訳聖書で最初に「おくぎ」が使われたのは、
1872年(明治5年)に出版されたヘボン、S・R・ブラウン訳の新約聖書馬可傳(マルコ伝)4章11節です。
この時の漢字表記は「奥儀」となっています。
http://www.meijigakuin.ac.jp/mgda/bible/search/book.php?id=1872marhep&;bible_cd=mar&chapter=4&verse=11&x=22&y=11

その翌年のマタイ伝13章11節では、漢字表記が「奥義」で振り仮名が「おくぎ」になっています。

この言葉はギリシャ語原典(テクストゥス・レセプトゥス)では「μυστήριον(μυστήρια)」、
欽定訳では「mystery(mysteries)」、
ヘボンらが参考にしたブリッジマンとカルバートソン共訳の中国語訳聖書で、すでに「奥義」となっています。

ヘボンらに先行する日本語訳聖書を見ると、ベッテルハイムのルカ伝8章10節では「秘密」、
ゴーブルのマタイ伝では「(てんの)ごせいじ」となっており、
ヘボンらの後、1875年に出版されたカロザースのマタイ伝では「奥義」に「ヲウギ」、
1876年のマルコ伝では「ヲクキ」と仮名が振られています。

その後、ヘボンは翻訳委員の中心として「明治元訳」と呼ばれる日本語訳聖書を完成させました。
「明治元訳」の新約聖書で用いられた「奥義(おくぎ)」は「大正改訳」「口語訳」「新改訳」でも使われ続けています。
(「新改訳2017」は未見)

「新共同訳」の場合、「明治元訳」では使われていない旧約聖書で「奥義(おくぎ)」が使われている一方、
新約聖書では使われず「秘密」などと訳されています。


ちなみに1895年の高橋五郎訳天主公教会(カトリック)聖福音書では「妙理」で「めうり」です。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/825594/81
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/825594/189