またダメだった。倦怠感と共に、身体から力が抜けていくのを感じた。
オレの名前は川本恒平・・・だったはずだ。もう、自分の本当の名前さえ忘れてしまった。
オレは罪から逃れるために、自らを滅ぼし、傷付けていく道を選んだ。
それが一番楽な筈。テメェでテメェの尻を拭うよりは、誰かに尻を拭ってもらった方が楽だろう。
オレはその誰かを自分で作ることにした。偽りの仮面を付けて、他の誰かを装う。
そうすると、なぜかスルっとこの不条理な世界から抜け出せる気がした。
しかし、現実はどうだ?何も変わっちゃいない。むしろ、誰かのせいで余計都合が悪くなっているじゃないか。
こうなったのは全てアンチのせいだ。あいつらさえいなければオレは順風満帆な歌い手ライフを送れていたのに、それなのに・・・!!
・・・難しいことを考えても仕方がない。ちょうど昼どきだ。飯をとりにいこう。
オレが向かったのは大きな商業施設の中にあるバーガーショップ。今は14時10分。時間が時間だからか、カップルや家族連れが座席の大半を占めていた。
その中には、ちょうどオレと同い年くらいの父親も大勢いた。
クソッ、クソッ、何が家族だ。そんなもん持ってもオレの重荷が増えるだけだ。そんなもんいらねぇ。
オレは苛立ちを抑えるように、注文待ちの列の中で地団駄をした。
周りの客はオレのことを怪訝そうな目で見ていたがそんなの知るもんか。オレは世間なんだからそんなの気にする必要はない。
ようやくオレの番が回ってきた。何時間待たせれば気がすむんだこの無能店員は。
14時10分に並んだのにもう14時12分だぞ。もっとテキパキと仕事をしろ。だからお前らは失敗作なんだよ。
まあいい。高いものを買ってこの下等国民たちに上級国民の風格ってもんを見せつけてやろうか。
「いらっしゃいませ!ご注文は何になさいますか?」
見たところ20代前半の女性だろうか、明るい雰囲気の店員が笑顔で注文を取りにきた。店員の愛想がいいのは素晴らしいことだ。
「・・・・・・・・・ガー・・・・・・ットで・・・・・・・・・ライト・・・・・・サイズ・・・・・・」
「?」
店員が不思議そうな顔をしてきた。注文を覚え損ねたのだろうか?しょうがない、もう一度言ってやろう。
「チーズ・・・・・・・・ドリンク・・・・・・・・・・スプラ・・・・・・・・・」
これで覚えられただろう。さあ、オレの元にバーガーを持ってきてくれ。
「あの・・・お客様?申し訳ございません・・・よく聞こえませんでした・・・・・・」
・・・は?
何を言ってるんだコイツは。え?オレちゃんと注文したよね?それなのにさ。え?は?何言ってんのお前?ふざけてんじゃねぇぞゴミ。
あぁもういい。店の迷惑になっても知るもんか。だってお前が悪いんだからな。オレの美声を聞き漏らしたお前が悪いんだからな。