川本文庫 「覗き見る男」(長編ホラーです、不快ならばNGお願いします)


私と竹本は共にH大学に通う同期で、普段から頻繁にアニメの話をしたり遊んだりする間柄であった。

茹だるような夏のある日、珈琲でも飲もうと私たちは大学近くの喫茶店へ足を伸ばした。

店内に漂う落ち着いた薫りと雰囲気を堪能しながら奥にあるソファーの席に座り、私はアイスコーヒーを、竹本はアイスカフェオレを頼んだ。

雑談を交えるなか、竹本がこんなことを言った。

「なぁ、ニコニコ動画のあの動画知ってるか?」

彼によると、今日は鋼兵という歌い手が引退してから二周年の祭りだという。なんでもその歌い手は、常軌を逸した言動や犯罪行為の露見のせいでネット上のユーザーから叩かれてインターネットから姿を消したのだそうだ。

竹本が続ける。

「そいつはまだインターネット上にいて、2ちゃんねるの鋼兵のアンチスレって所を荒らし回ってるって噂なんだってさ!」

「引退してから2年も経つのにアンチスレがまだあるのか?」

「なんでも、複数の端末から書き込んで自演しながらそれらを喧嘩させてるらしいよ」

「狂ってる……」

私はひどく辟易した。

竹本のスマホを覗かせてもらうと、タイトルには「鋼兵(川本恒平) アンチスレPart784」と書いてあり、そこは「鋼兵 東大理三 8オクターブが出せる 稀代の男前」などと言ったおびただしい数のサジェスト浄化を図った書き込みで埋め尽くされていた。

竹本が画面を見て笑う。
「アッアッアッ、すごいよなぁ!? こんな無能がいまだにインターネットに居るとかマジで質落ちたなw」

その帰り道、私は竹本に対して幾らかの違和感を感じながらもその正体に気づくことは出来なかった。

竹本が居候先を追い出され、行方不明となったという知らせを私が聞いたのはそれから2日後であった。


【要望あれば続きます】