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現渡り(うつつわたり)

甲斐武田家に伝わる究極の修行法
戦において致命的となるのは言うまでもなく背後からの攻撃である。
甲斐の戦国大名武田勝頼が考案した現渡り(うつつわたり)は、現世からあの世へと渡ってしまう者が後を絶たない危険な修行法であることからその名が付けられた。
東向きに数百数千という無数の槍が設置され、修行を行う侍は申の刻(15時)の鐘を合図に一斉に後ろ向きで西へと全速力で進み続ける。
僅かな槍の気配を感じる事ができない未熟者は命を落したが、現渡りを成し遂げた者には褒賞として莫大な米穀引換券が与えられた。
現渡りにより鍛錬された独特の歩き方は、修行時に常に太陽を背にしていたことから「逆日歩き(さかにちあるき)」と呼ばれ戦場で恐れられたという。
しかし命がけの過酷な修行に怯える侍は後を絶たず、言い訳をして次回に先延ばしにする者は「翌発侍」と嘲笑された。
現代における証券用語の現渡、逆日歩、翌発待がこれに由来することは言うまでもない。

民明書房刊
「兜町のフィクサー 佐藤係長」より