<AI時代>
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79914230X00C22A2MM8000/?unlock=1
(6)人工知能 人知超えるAI、「天使」か「悪魔」か
デジタルクローン「判断」担う
2022年2月7日 2:00 [有料会員限定] 日経

思考までコピー

「現場の体制はどう?」「プロジェクトマネジャーが足りないね」。人工知能(AI)開発のオルツ(東京・港)で社長と副社長が議論を重ねる。会話するのは人間ではなく、2人の思考をコピーした「デジタルクローン」だ。SNS(交流サイト)への投稿などのデータを基に、自律的に質問や答えを用意する。

電子メールの作成や、会議への出席。オルツの狙いは仕事を肩代わりしてくれる分身AIの実現だ。米倉豪志副社長は「将来は経営判断まで任せたい」と意気込む。

「人類の知能をしのぐ機械が発明までこなす」。1965年、英数学者のアービング・ジョン・グッド氏は高度なAIの登場を予言した。半世紀後、同氏の描いた世界は実現に近づいたが複雑な意思決定をどこまで委ねるかは議論が分かれる。

2021年3月に公表された国連専門家パネルの報告書は、殺傷能力をもつトルコ製の自律型兵器が20年にリビアで使用された疑いを指摘した。「生殺与奪の判断を機械が担う未来は忌まわしい」(ニュージーランドのフィル・トワイフォード軍縮・軍備管理担当相)。国際社会でもAI兵器への批判は強い。

懸念されるのはAIが人間の思考能力を奪ってしまう事態だ。「大学の授業で合格点を得るリポートを書いた」「執筆したブログ記事がニュースサイトのランキングで首位を獲得した」。20年に米国で登場した言語AI「GPT-3」は自然な文章を生成する半面、依存すれば知的作業の放棄につながる。

先生として学び
これからはAIの発展を人類の進化に結びつける発想が欠かせない。世界的権威をもつ米科学誌サイエンスは21年の最も優れた研究成果に英ディープマインドのAI「アルファフォールド」をあげた。たんぱく質の立体構造を高精度で予測し、知覚や運動など生命活動の根幹について人間の知識や理論を超えた発見をもたらす。

うまく生かせば今は存在しない薬や抗体を作り出せるとされ「生命科学を新たな次元に進める」(東京大学の森脇由隆助教)。将棋や囲碁の世界では従来の常識とは異なるAIの繰り出す手が人間に気づきを与え棋士らのレベル向上を助けた。経営やスポーツ、芸術などさまざまな分野で人間がAIを「先生」と見立てて学ぶ動きが広がる。

経済成長をもたらすエンジンとしての潜在力も大きい。PwCによると、AIは労働生産性の改善などで30年の世界の国内総生産(GDP)を最大15.7兆ドル(約1800兆円)押し上げる。

技術と人類は競争の連続だ。計算機は暗算力を衰えさせたが物理や化学の水準は上がった。より高次の判断に関わる部分で人にとってかわるAIは共存のための知恵が欠かせない。天使にも悪魔にもなる革新をどう使いこなして前進するか。決めるのはわたしたちだ。