太田匡彦
2021年10月22日16時00分

 犬種や猫種に特有の遺伝性疾患がいくつも存在します。それは、人が純血種として固定化してきた結果として生じたものです。ただ、人が交配の組み合わせを決めて繁殖、販売する犬猫では、一部の遺伝性疾患は「予防」が可能です。
ある3匹の柴犬(しばいぬ)の死をきっかけに、発症すれば死に至る遺伝性疾患「GM1ガングリオシドーシス」=動画=については、繁殖、販売の現場で対策が進み、発症する犬はほとんど見られなくなりました。一方で、適切な予防が行われていなかったり、問題が放置されていたりする種や疾患があります。その典型とも言えるのが、人気猫種のスコティッシュフォールドです。

 猫ブームの影響で、純血種の猫をペットショップで買う消費行動が浸透してきた。この数年、販売頭数は右肩上がりで増えている。なかでも人気なのがスコティッシュフォールドだ。アニコム損害保険の調査では、2021年まで13年連続で人気1位の猫種となっている。
 だが猫種名の由来であり、人気の理由にもなっている「折れ(fold)耳」を、骨軟骨異形成症という、優性遺伝する遺伝性疾患の症状だと知る消費者は、どれだけいるだろうか。原因となる遺伝子を両親から受け継げば重症化して四肢に骨瘤(こつりゅう)ができ、歩く際に脚を引きずるようになったりする。
多くの人が飼う、片親からだけ原因遺伝子を受け継ぐことで耳が折れている猫でも、年齢を重ねると四肢の関節が変形する。これらは獣医学的に、痛みが生じると考えられる状態だ。折れ耳スコティッシュの多くが、あまり動きたがらなかったり、動きが遅かったりするのは、痛みのためだと推定されている。動物の遺伝性疾患に詳しい専門家らが、この猫種の繁殖・販売を問題視するゆえんだ。

 そもそも「病気の猫」をあえて繁殖、販売しようとすることに問題があるのだが、実は、小泉進次郎環境相(当時)が「悪質な事業者を排除するために自治体がレッドカードを出しやすい明確な基準にする」と表明して今年6月に施行された環境省令でも、
「遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある組合せによって繁殖をさせないこと」と定められている。違反した業者には、動物愛護法に基づく改善勧告や業務停止命令などが出される可能性がある。

https://www.asahi.com/amp/articles/ASPBL3PX8PBJUCFI001.html