■新型コロナウイルス抗体検査の正確性は?

さまざまな国で新型コロナウイルスの感染歴を調べる抗体検査が進められている。しかし、その正確性を裏付ける質の高いエビデンスはほとんどなく、特に検査室外で実施するタイプの検査についてはエビデンスが弱いとする研究結果が、マギル大学ヘルスセンター(カナダ)のMayara Lisboa Bastos氏らにより「BMJ」7月1日オンライン版に報告された。

Bastos氏らは今回、新型コロナウイルス抗体スクリーニングの診断精度を調べるために、2020年1月1日から2020年4月30日までの間に発表された、さまざまな種類の新型コロナウイルス抗体検査の感度と特異度を評価した研究論文を検索し、基準を満たした40件の研究結果についてメタ解析を実施した。なお、感度とは、疾患が陽性であることを正しく判定する確率(真陽性率)、特異度とは、疾患が陰性であることを正しく判定する確率(真陰性率)を指す。

解析対象となった研究論文で最も多かったのは中国のもので、28件(70%)だった。そのほかは、イタリアと米国が3件ずつ(8%)、英国、デンマーク、スペイン、スウェーデン、日本、ドイツの研究が1件ずつだった。また、これらの論文の半数(20件)は査読を受けておらず、外来患者を対象者に含めた研究は4件だけで、ポイント・オブ・ケア検査(POCT、患者の傍らで迅速診断キット等を用いて行う検査)について評価した研究は、わずか2件にとどまった。

それぞれの研究結果を統合したところ、抗体検査の感度は、LFIA(ラテラルフローイムノアッセイ)の66.0%からCLIA(化学発光免疫測定法)の97.8%までと、検査法による差が見られた。感度が66.0〜97.8%ということは、2.2〜34%の人が抗体を持っていても検査で見逃される可能性があることを意味する。一方、特異度でも、96.6%(LFIA)から99.7%〔ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)〕までと、検査法による違いが見られた。これは、0.3〜3.4%の人が、実際には抗体を持っていないにもかかわらず、検査で陽性と判定される可能性があるということである。

検査の種類に関しては、社会活動の再開を認める許可証としての役割を想定されている「免疫パスポート」の発行において、POCT法として活用が検討されているLFIAの感度が、一貫して他の検査法よりも低かった。また、市販されている検査キットの感度は総じて市販されていない検査キットよりも低く、その差が最も顕著だったのもLFIAを使ったキットだった(65.0%対88.2%)。

これらの結果についてBastos氏らは、「新型コロナウイルスの血清学的検査、特に、POCTとして市場に出回っている検査に対するエビデンスの弱さを示した研究結果だといえる」と説明。その上で、「POCTは、新型コロナウイルス感染歴の有無を判定する上で正確性が極めて低いため、今後、この目的でPOCTを使用すべきではない」とする見解を示している。

それに加えて、Bastos氏らは、血液検査による新型コロナウイルス抗体検査の正確性について検討した質の高い研究が少ないことを指摘する。そして、「今回のレビューによって、こうした抗体検査を評価する質の高い臨床試験の必要性が浮き彫りになった。そのような研究は、国際協力すれば、すぐにでも実施できるはずだ」と結論付けている。

米ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターの感染症専門医Amesh Adalja氏は、今回の報告を受けて「抗体検査への関心は高いが、多くの検査キットは信頼性を裏付ける適切な検査特性を有していないことを認識しておくことが重要だ」と指摘。また、「この研究により、抗体検査の結果の解釈、感度や特異度の許容範囲、検査結果を踏まえた対応などを標準化する必要性が明確に示された」としている。(HealthDay News 2020年7月1日)

▼外部リンク
・Diagnostic accuracy of serological tests for covid-19: systematic review and meta-analysis
https://www.bmj.com/content/370/bmj.m2516

http://www.qlifepro.com/news/20200713/antibody-test.html