国立天文台(東京都三鷹市)など九つの研究組織でつくる自然科学研究機構が、軍事応用できる基礎研究に対して防衛省が助成する「安全保障技術研究推進制度」への不参加を決めた。応募を検討した天文台執行部は、国の交付金が削られる中で新たな財源の候補に挙げていた。機構の不参加の決定は、厳しい台所事情よりも成果が軍事技術に用いられることへの研究者の抵抗感が勝った結果だが、財政難を理由に応募の検討を余儀なくされる窮状を浮き彫りにした。(共同通信=矢野雄介)

 ▽最先端の成果

 自然科学研究機構は、国立天文台や核融合科学研究所(岐阜県土岐市)などの5機関や、生命創成探究センター(愛知県岡崎市)など4センターから構成される大学共同利用機関法人。国立天文台の「すばる望遠鏡」(米ハワイ州)や、核融合科学研究所の「大型ヘリカル装置(LHD)」といった大型設備を持ち、全国の研究者が共同で利用できる。

 防衛省の制度は2015年度に始まった。外局の防衛装備庁が研究課題を示し、大学や研究機関の応募を求める。外部の専門家による審査を経て採択された大学などは研究資金を、防衛省側は最先端の研究成果を手に入れる。助成される研究費は年1千万円前後から数億円に上る。

 制度の背景には、インターネットのように軍事技術が民間利用される「スピンオフ」だけでなく、人工知能(AI)や高性能素材といった民間技術が軍事応用される「スピンオン」の動きがある。中国は兵器開発に民間企業を参入させる「軍民融合」を国家戦略に掲げており、日本が取り残される懸念や、国内の研究者が中国の資本力に取り込まれる恐れが指摘されている。

 ▽天文学と軍事技術

 一見すると軍事研究と関係の薄そうな天文学だが、望遠鏡に使われる高性能の赤外線検出器が軍事技術から生まれたとされるように宇宙、エネルギー、物質科学分野と軍事技術の親和性は高い。最先端の設備や、優れた人材を抱える国立天文台は防衛省側からは魅力的に映る。18年度の公募では、遠い宇宙空間をゆがみなく観察する国立天文台のすばる望遠鏡に言及して研究課題を示した。

 ただ制度に対しては、研究者らで作る日本学術会議が17年の声明で「政府による介入が著しく問題が多い」と批判。国立天文台も16年に一度は応募しない方針を決めたが、19年7月に常田佐久(つねた・さく)台長ら執行部が再検討を提案していた。機構は今年4月、各組織の意見を聞いて審議し、全組織の応募を認めない決定を下した。

▽難しい線引き

 学術会議の声明もあり、大学の応募数は減少傾向だが、肯定的な組織もある。筑波大は19年度に炭素素材「カーボンナノチューブ」を使って衝撃に強い次世代素材を作り出す内容で採択され、5年間で最大20億円の資金提供を受ける対象となった。学内の審査委員会は、兵器への応用を意図しない基礎研究と判断したとしている。

 どこまでが軍事研究への関与なのかの線引きが難しいのも事実だ。どんな研究も成果が公開されれば、軍事応用される可能性がある。学術会議は「研究の入り口で資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」と呼び掛ける。

 軍学共同反対連絡会の小寺隆幸(こでら・たかゆき)事務局長は「防衛省の制度は軍事技術への応用を強く意識したものだ」と指摘する。19年には基礎研究の成果を具体的な装備品などの研究開発につなげる橋渡し研究の体制が整備されたことに触れて「応募することは、自ら軍事分野に入っていくことを意味する。軍事力を高めることが日本の生きる道ではなく、科学者は日本の科学がどうあるべきかを冷静に考えて行動すべきだ」と訴える。

続きはソースで

https://news.yahoo.co.jp/articles/5fc023174a4d9bc9c600181cf2828ebc41bd353b