■感染者が再び急増し始めた米国、その分析と対策とは

 人間は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に勝つことができる。その理由はウイルスが単純なものだからだ。ウイルスは何らかの助けなしにはどこへも行けない。外気に長時間さらされれば大半が分解される。ウイルスが得意なのは増殖することだけだ。

 もちろん問題は、この唯一のタスクに、コロナウイルスが非常に長けていることであり、米国をはじめ、ロックダウン(都市封鎖)などの制限を緩めつつあった国々は今、流行の再燃という壁にぶつかっている。

 米国ではここ数カ月、毎日の新規感染数は2〜3万の間で推移していたが、最近になって30の州で急上昇している。特にテキサス州ヒューストンではわずか2週間のうちに1日の新規感染者数が300から1300に急増、他の州も似た事態に直面している。

「被害が大きい地域の病院のICUや人工呼吸器のキャパシティは、限界に達しつつあります」と、米アリゾナ大学准教授で感染症疫学者のパーニマ・マディバナン氏は言う。「今考えられる対策としては、少なくともハームリダクションから始めようということくらいです」

「ハームリダクション(危害低減、harm reduction)」とは、そもそもは薬物依存症における厳しい禁止措置の代わりに始まったもので、厳格な指導に全員を従わせるのではなく、実害を減らすことを目指す公衆衛生上のツールや習慣だ。たとえば、感染症予防を目的とした、薬物使用者向けの注射針交換プログラムや、セックスワーカーへのコンドーム配布などが挙げられる。

■ハームリダクション

 このアプローチは、リスクの度合いは人や環境によって異なり、解決策は個々の状況に応じて調整されるべきであるという考えに基づいている。

 新型コロナウイルスの場合、ハームリダクションの一例としては、人混みなどのリスクの高い場面ではマスクを着用するよう人々を促す一方で、公園など互いに安全な距離を保てる場所ではそうしたガイドラインを緩める、というものがある。ハームリダクションでは、個人の意思決定だけではなしえない成果が期待でき、すでにニュージーランド、韓国、ニューヨーク州など、いくつかの国や州でコロナウイルスの抑え込みに成果を上げている。

「6週間ほど前には、わたしたちはいつまでも家の中にいるか、それとも普段どおりに職場に戻るかという、誤った二者択一の間で立ち往生していました」と語るのは、米ハーバード大学医学部教授で疫学者のジュリア・マーカス氏だ。「リスクは二項対立的なものではありませんし、社会的な接触を控えるため、人々が永久に家の中にいるようには望めません」

ナショナル ジオグラフィックがコンタクトをとった疫学者、ウイルス学者、心理学者らもこれに同意している。ハームリダクションの考え方のもとに、より統一された計画の立案とその内容の周知を行えば、現在苦戦を強いられている各国政府は、おそらく再度のロックダウンを行うことなくCOVID-19に勝利できると述べている。専門家らによると、米国がCOVID-19の拡大を止められない主な要因は、ウイルスに対する人間の本質的な強みを活かしていないことだという。つまり、コミュニケーション、協力、歩み寄りだ。

「抑え込みに成功しているのは、政治と民間の意思が完全に一致している国々です」と語るのは、米コロンビア大学メールマン公衆衛生大学院の疫学者、ジェフリー・シャーマン氏だ。こうした専門家の中には、われわれがCOVID-19との闘いに破れたと考えている人間は一人もいない。ただし、政府のリーダー、メディア、科学者、一般市民は、考え方とメッセージの伝え方を変える必要がある。

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