米ハワイ諸島沖の深海で、サメが巨大なイカと格闘した。相手はダイオウイカかもしれない。

 体長2メートルのヨゴレ(Carcharhinus longimanus)というサメの体表に、巨大な触腕によるゴルフボール大の吸盤の傷跡が残されていたのだ。

 これは、ダイオウイカあるいは水深300メートル以上の深海に生息する大型のイカとサメが対決したことを示す、初の科学的な証拠だと研究者たちは言う。

 深海へ潜るマッコウクジラとダイオウイカの闘いはよく知られているものの、サメが巨大な頭足類と対決しているという証拠はこれまでなかった。

■偶然撮影された写真がきっかけ

 始まりは2019年の夏。写真家ディーロン・バーベック氏がハワイ島西岸のコナ沖で、体の側面に白い点が線路のように並んだサメを見かけた。科学者たちが傷跡を基にサメの個体識別を行うことを知っていた氏は、数枚の写真を撮影した。

 その後、写真をパソコンに取り込み、点を拡大して見たところ、大きな環状の吸盤の跡だとわかって驚いたという。

「なんだこれは、すごい! と思いました」。そこで氏は、フェイスブックに写真をアップロードした。

 米フロリダ国際大学のサメ生態学者ヤニス・パパスタマティウ氏は、この写真を見て、直ちにバーベック氏に連絡を取った。

「すぐに写真を削除して! これは誰も見たことがないものなんだ、と言われました」とバーベック氏は回想する。

パパスタマティウ氏らは、6月3日付けで学術誌「Journal of Fish Biology」に発表した論文で、このサメとイカが対決した証拠について記述している。このような跡を残せる大型のイカは数種類いるため、実際にどの種のイカだったのかは不明だ。しかし、同氏が言うには「かなり大きなものだったはずです」

 こうした発見は特に、フカヒレ漁により絶滅を危惧されているヨゴレの保全に役立つ。例えば、ヨゴレが深海で採食を行っているようだとわかれば、どの海域を保護すればよいのかを政策立案者に提案することができる。

■知られざる深海の闘い

 パパスタマティウ氏は、1枚の写真に基づいて結論を下すことは困難だと注意を促す。「何よりも残念なのは、何が起こったのかを実際に見られなかったことです」

 サメとイカという捕食者同士が行き合って小競り合いが起こったとも考えられる。だが同氏は、どちらかと言えばサメがイカを捕食しようとして追いかけたのではないかと考えている。

米マサチューセッツ大学アマースト校の博士課程で海洋生物学を専攻するグレース・キャッセルベリー氏も、サメが大きなイカと対決したという話を聞いたこともなければ、サメに吸盤の跡が付いているのを見たこともないと言う。なお、氏は今回の論文には関わっていない。

 傷跡が付いたサメは多いが、「何が傷を付けたのかを特定できるケースは多くありません」と氏は言う。「肌の傷跡だけからそうした関係を記述できる今回のケースは、とても素晴らしいです」

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