※忽那賢志 | 感染症専門医

先日、New England Journal of Medicine(NEJM)、Lancetという2大臨床医学誌(少年誌で言えば少年ジャンプと少年マガジン)で新型コロナに関する論文の撤回がありました。

論文撤回というのは、一度掲載された論文が諸々の理由によって取り下げになることです。

NEJM、Lancetはどちらも非常に影響力の大きい医学誌ですので、臨床医の間では衝撃が走りました(「世紀末リーダー伝たけし」打ち切りくらいの衝撃)
https://rpr.c.yimg.jp/im_siggcTSC8P_82qwTkqXorzKaqA---x800-n1/amd/20200606-00182086-roupeiro-002-28-view.jpg

(中略)

■これらの論文の何が問題だったのか

5/28にこれらの論文に対する疑義が世界中の疫学や公衆衛生などの専門家から提出されています。

これら2つの論文はいずれの論文もサージスフィア(Surgisphere)という社員わずか数名のデータ分析会社のデータによるものでした。

この会社が世界中から症例情報を集めたレジストリからのデータを用いた研究とのことでしたが、専門家からは倫理委員会の審査がないこと、症例が登録された国と病院の名前がないこと、ある国の死亡者の数よりもその国にある1つの病院での死亡者数の方が多い、などの点が指摘されています。

これらを明らかにするためにデータの開示を求められたところ、サージスフィア社は「様々な政府、国、病院とのデータ共有契約のため、データ共有はできない」と回答しており、データ開示を拒否したことから、再検証は困難であるということで論文撤回に至ったようです。

後から見返してみると、クロロキンやヒドロキシクロロキンを投与された患者群の死亡率が高すぎるのですが、なかなかこうしたメジャージャーナルの結果を疑ってかかるというのは難しく、疑義を提出した疫学専門家の方々の彗眼に驚くばかりです。


■イベルメクチンの論文もサージスフィア社のデータを用いている

さて、イベルメクチンという寄生虫薬が新型コロナに有効ではないかという話をご存知でしょうか。

イベルメクチンはノーベル賞を受賞された大村智先生が開発したノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先生の発見したアベルメクチンの化学誘導体ですが、イベルメクチンが実験室レベルで新型コロナウイルスを抑制することをオーストラリアのグループが報告していました(4/3にオンライン掲載)。

その後、ヒトに対してイベルメクチンが投与された症例と投与されていない症例を解析した症例対照研究が査読前論文として掲載されていました。実はこれもサージスフィア社のデータを使用した研究でした。

この論文によるとイベルメクチンを投与されていた患者ではされていなかった患者と比べて総死亡率が圧倒的に低かった(1.4% vs 8.5%)という驚異的な結果であり、臨床医の間では衝撃が走っていました。

しかし、一方で「ちょっと出来すぎてるよね」とか「なんか図がおかしくない?」とか「解析手法が変」とか、鵜呑みにできないなという意見の臨床医が多かったのも事実です。

この論文の対象となっていたのは「2020年1月1日から2020年3月31日までにCOVID-19と診断された患者」であり、3ヶ国169病院から704人のイベルメクチン投与患者、704人の非投与患者が登録されています。

何かおかしいことに気づきませんでしょうか?

イベルメクチンが新型コロナウイルスに有効かもしれないという実験室レベルでの研究成果がオンライン上に掲載されたのが4月3日なのに、3月31日までにイベルメクチンを投与されていた新型コロナ患者が(いくら世界広しと言えども)704人もいるのか、と。先見の明ありすぎやろ、と。

というわけで、おそらくこの査読前論文もサージスフィア社が(全てまたは部分的に)捏造したデータなのでしょう。

この論文は査読前とは言え、かなりインパクトが大きかったので、これを受けて実際にイベルメクチンを使用した医療機関もあったのではないかと想像します。

実際に南米のペルーではこの論文を受けて新型コロナの治療薬ガイドラインにこのイベルメクチンを選択肢として入れたそうです。

しかし、さすがにこの査読前論文はアラが目立ち、この論文からこのサージスフィア社の論文が疑われ始めたという論説も出ています。

続きはソースで


https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200606-00182086/