2020.05.31 SUN 18:00
https://wired.jp/2020/05/31/oumuamua-might-be-a-giant-interstellar-hydrogen-iceberg/

観測史上初の太陽系外から来た天体として発見された「オウムアムア(Oumuamua)」が、実は巨大な分子雲から吐き出された水素氷山であるとの仮説が、このほど公表された。この“氷山理論”によってオウムアムアが奇妙な葉巻型であることも、太陽系に入ってから加速を始めた理由も説明が付くという。だが、いかに証明すればいいのか?

2017年に「オウムアムア(Oumuamua)」が観測史上初の恒星間天体として太陽系内で発見されて以来、この天体は天文学者たちにとって無限に好奇心をそそられる存在となっている。この巨大な隕石の塊は珍しい葉巻型で、くるくると回転しており、彗星または小惑星として容易に分類することができない。

別の惑星系からの訪問者であるオウムアムアには不確かな部分が多く、その起源や組成については諸説が語られている。宇宙塵の塊、宇宙人の宇宙船、恒星によって分解された小さな惑星の残骸など、さまざまな憶測が飛び交ったのだ。

こうしたなかイェール大学のふたりの天体物理学者が、オウムアムアには恒星間氷山の要素があるとする新たな説を5月下旬に打ち出した。プレプリント(査読前論文)として「Astrophysical Journal Letters」への掲載が認められたこの研究は、オウムアムアの起源は巨大な分子雲にあるとしている。
オウムアムアは水素氷山だった?

この幽霊のような物体は巨大な惑星製造機で、その長さは数光年におよぶこともあり、数万個もの星々を形成できるだけのガスを含むとされる。しかし、今回の新たな研究によると、分子雲は見た目や動きがオウムアムアによく似た水素氷山を吐き出す可能性もあるという。

「水素氷山は少し珍しいものかもしれませんが、オウムアムアのあらゆる謎について説明を与えてくれるものなのです」と、論文の執筆者のひとりであるダリル・セリグマンは語る。セリグマンはシカゴ大学の博士研究員になることが決まっており、共著者の天体物理学者グレゴリー・ラフリンはイェール大学で彼の博士課程の指導教官を務めた人物だ。

もしセリグマンとラフリンが正しければ、オウムアムアは観測史上初の恒星間天体であるだけでなく、観測史上初の水素氷山でもあるということになる。
数十万年かかって巨大な氷の塊に?

水素は一般的に気体として存在しており、太陽などの核融合プロセスの燃料源となっている。だが、十分に冷却された場合には、水素は固体となる。この宇宙でそのような相転移を引き起こすほどの低温であることがわかっている場所は、巨大な分子雲の密度の濃い氷のような中心部分だけだ。

「昇華温度が非常に低いので、水素氷に関する研究はほとんどありません」と、セリグマンは語る。昇華温度とは、固体が直接気体に変化する温度のことだ。セリグマンによると、水素が凍るのはおよそ-268℃で、これは絶対零度(-273.15℃)とわずか数度の違いしかないという。

巨大な分子雲のコア部分の寿命は数十万年ほどと、比較的短い。分子雲は時間とともに銀河の撹拌によって侵食されていき、やがて消滅する。しかし今回の水素氷山理論によると、分子雲のコアが存在している短い期間に凍った水素分子が分子雲内の塵にくっつき、巨大な氷の塊を形成するという。

これは恐ろしく時間のかかるプロセスで、数十万年かかってようやく全長数百メートルほどの氷山ができあがるといった程度だ。米航空宇宙局(NASA)の研究者は、オウムアムアの全長は800m以下であるとの計算をしており、この説明にうまく当てはまる。
オウムアムアが加速した理由

この氷山理論は、オウムアムアが奇妙な葉巻型であることにも説明を付けている。巨大な分子雲のコアが消え去り、できあがった氷山が虚空を漂い始めると、この氷山は絶えず宇宙線に晒されることになる。宇宙線は特定の角度から、より大量に氷山を削り取り、結果として細長い形ができあがる。

セリグマンはこれを固形石鹸にたとえる。つまり、使っていくうちに平たい楕円形になっていく固形石鹸と同じようなものだというわけだ。

しかしセリグマンにとって最も刺激的だったのは、水素氷山理論によって、オウムアムアが太陽系に入ってから加速を始めた理由を説明できることだった。オウムアムアの加速は引力だけで説明できるものではなかったのである。

複数の天文学者が展開してきた最も有力な理論は、オウムアムアは隕石が急速に沸騰して気体を発生させるガス放出という現象を推進力にしているというものだった。彗星が美しい尾を引くのはこの現象が原因であり、この尾は一般的に二酸化炭素や水などの化合物で構成されている。

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