ファージウイルスのように狙った細菌だけに取りつき、杭を打ち込んで物理的に相手を破壊できる。そんな夢のような抗生物質の作成がはじまりました。

この抗生物質は、緑膿菌がライバルの細菌を殺すために分泌する、ある「奇妙な物体」を参考にして開発されたものです。

この「奇妙な物体」はファージウイルスの頭部を切り落としたような構造をしており、ライバルの細菌の表面に取りついて、内部に仕込んでいた杭を射出して破壊します。

今回アメリカ、カリフォルニア大学の研究者たちが目をつけたのが、この「首無しファージ」の標的認識機能です。

標的認識を書き換えられれば、人間の害になる薬剤耐性菌などをピンポイントで攻撃できるからです。

あらゆる抗生物質に耐性を示す超耐性菌(スーパーバグ)であっても、生物である以上物理的に穴をあけられたら生きてはいられません。

では、この首無しファージのような奇妙な物体の正体はいったい何なのでしょうか?

■首無しファージ(バクテリオシン)は大事なものをもっていない

この奇妙な「首なしファージ」の正体は、バクテリオシンと呼ばれる複数のタンパク質部品から構成される、天然のナノマシーンです。

ファージウイルスとバクテリオシンには不思議な共通点があり、共に足の部分で標的とする細菌を認識し、鞘の部分から杭を打ち込みます。

ファージウイルスはその杭の内部を通して、頭部に蓄えた遺伝情報を細菌に流し込み、細胞の自己複製機能を乗っ取って、自分(ウイルス)の体を複製させます。

一方、バクテリオシンには遺伝情報(核酸)がつまった頭部がなく、あるのは標的を認識する足のセンサーと、武器である杭を駆動させる機械的な仕組みだけです。

これはバクテリオシンが自己の増殖を目的としておらず、単純に相手を殺すキラーナノマシーンだからです。

ですが、なぜ緑膿菌がキラーナノマシーンを分泌するようになったかはまだわかりません。

近年における進化生物学の常識としては、生物が極めて奇妙な能力を獲得するときは、ウイルスの遺伝子を取り込んでいるケースがほとんどです。

バクテリオシンの構造や部品の稼働原理がファージと非常に似ていたため、緑膿菌が自身に感染したウイルスの遺伝情報を取り込んで、自分にとって有益な攻撃兵器に作り替えたのかもしれませんが、現時点ではわかっていません。

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