大気がある太陽系の天体は地球を含めて、その一部が何らかの形で宇宙に失われ続けているとみられています。今回、天王星の大気が失われる様子をNASAの惑星探査機「ボイジャー2号」が観測していたとみられることを明らかにした研究成果がNASAにて紹介されています。


■「プラズモイド」がイオン化した水素を運び去っていた

ボイジャー2号が撮影した天王星(Credit: NASA/JPL-Caltech)

人間のタイムスケールからすればほとんど影響はないものの、より長いタイムスケールでは、惑星の大気が失われることで大きな影響が現れてきます。たとえばかつての火星は海が存在するほどの気候だったと考えられていますが、現在は大気が薄く、寒く乾燥した大地が広がる惑星となっています。

Gina DiBraccio氏とDan Gershman氏(いずれもNASA・ゴダード宇宙飛行センター、アメリカ)は、1986年1月にボイジャー2号が天王星のフライバイ観測を実施した際の磁力計のデータから、ボイジャーが「プラズモイド(plasmoid)」と呼ばれるプラズマの塊を通過していたことに気が付きました。天王星でプラズモイドが確認されたのは、これが初めてのこととなります。

プラズモイドは惑星が持つ磁気圏のうち太陽とは反対側に長く伸びた磁気圏尾部から吹き出すもので、地球の磁気圏でも発生します。観測データを分析したところ、ボイジャーが観測していたプラズモイドの大きさは長さが最低でも約20万km、直径は約40万kmの円筒形で、天王星の大気に由来するイオン化した水素で大半が満たされていたと考えられています。
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■磁力計の観測データを250倍の細かさで再解析

ボイジャー2号の磁力計による観測データを示したグラフ。赤い実線が従来参照されてきた「8分ごと」の平均値をもとにしたグラフで、黒い実線が「1.92秒ごと」のグラフ(Credit: NASA/Dan Gershman)

将来の天王星や海王星における探査ミッションを検討しているDiBraccio氏は、同僚のGershman氏とともに、ボイジャー2号の磁力計による観測データを改めて確認していました。従来の研究でも参照されてきた「8分ごと」の平均値よりも250倍細かい「1.92秒ごと」の磁場の変化をチェックしたところ、これまで未確認だった磁場の強さの細かな変動が出現。そのなかに、ボイジャーのフライバイ当時ほとんど知られていなかったプラズモイドの存在を示す特徴が含まれていたといいます。

プラズモイドによって失われる大気の量は、天王星から失われる大気の量全体に対して15〜55パーセントに上るとみられています。この比率は木星や土星よりも高く、天王星から大気が失われる主な原因となっている可能性をGershman氏は指摘します。

ただ、天王星のプラズモイドはボイジャー2号のデータから「発掘」された今回の発見が唯一の観測例となるため、現時点では天王星に及ぼす影響を断定することはできません。DiBraccio氏も、今回の観測データだけでは「木を見て森を見ず」なことになるといった趣旨のコメントを寄せています。天王星の磁気圏におけるプラズモイドの存在は、今後の観測や探査ミッションにおける研究対象として注目されることになるかもしれません。
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