「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」を、アメリカ空軍は戦闘機に搭載したロケット弾でやろうとしました。1機に搭載した、その数なんと100発以上。ミサイル実用化前夜に登場したF-89D「スコーピオン」、実際の戦闘ではどうだったのでしょうか。

■ミサイル実用化前夜 ロケット弾をもりもり積んだF-89D「スコーピオン」
 
ミサイルが実用化される前、空対空戦闘用の主兵装にはロケット弾も用いられましたが、これをなんと100発以上も装備した戦闘機がありました。それが、アメリカ空軍のジェット戦闘機F-89D「スコーピオン」です。同機は1951(昭和26)10月23日に初飛行すると、各種テストの後、1954(昭和29)年から部隊配備が始まりました。

 F-89「スコーピオン」の初期生産型であるA、B、C各タイプの武装は20mm機関砲6門でしたが、大型の戦略爆撃機を迎撃するには射程、威力ともに20mm機関砲では不十分であるという理由から、次のD型では主武装が空対空ロケット弾になりす。もともとC型まで左右の主翼端に燃料タンクを装備しており、D型ではこのタンクがひと回り大きな形状の、燃料タンクを兼ねたロケット弾ポッドに変更されました。

 このポッドには、片側だけで52発、左右合計で104発もの空対空ロケット弾を収めることができました。これほど多くのロケット弾を搭載したのは、ミサイルとは違って無誘導で前方にしか飛んでいかないため、数でカバーしようとした結果です。

 こうしてF-89D「スコーピオン」は、シリーズの最多生産型で、1954年からアラスカをはじめアメリカ各地の戦闘機基地に配備が始まりました。おもな任務は、東西冷戦で対立する旧ソ連の戦略爆撃機が北極海を超えて飛んできた際の迎撃にあたることです。
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■ミサイル時代の到来でF-89D「スコーピオン」は…?

これにより、アメリカ軍戦闘機の主武装は、無誘導のロケット弾から、目標を追尾するミサイルへ急速にシフトしていきました。F-89D「スコーピオン」にも、後期生産型で「ファルコン」ミサイルの運用が可能なタイプが登場します。

 その後登場した改良型のF-89Hでは、D型と同じく主翼の端に燃料タンク兼用の兵装ポッドを備えていましたが、ロケット弾を片側52発から21発に減らされ、代わりに「ファルコン」ミサイルを3発搭載する形に変更されます。ロケット弾は左右合計で42発と、D型の104発から大幅に数を減らしています。

 やがて1960年代に入ると、ジェット機はより高速で飛翔し高性能化していったため、無誘導のロケット弾で撃墜するのは困難になっていきます。加えてミサイル全盛という時代背景もあり、こうしてロケット弾は空対空用としては用いられなくなっていきました。
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■F-89D「スコーピオン」の大量ミサイル 実際には…? ロサンゼルス郊外での実弾射撃

 8月16日の午前11時34分、アメリカ西海岸カリフォルニア州にあるポイントマグー海軍航空基地から訓練のために飛び立ったF6F-5K無人標的機が、コントロールを失い、ロサンゼルスの方へ向かい始めました。

 市街地に墜落すれば大惨事になるため、F6F-5Kの撃墜が検討されます。しかしこの海軍基地には当時、戦闘機部隊が配備されていなかったため、近郊のオックスナード空軍基地に戦闘機の緊急発進を要請します。

 こうして、当時オックスナード空軍基地に配置されていたF-89D戦闘機2機が出撃しました。2機はアフターバーナーを使ってロサンゼルス北東約9km地点でF-6F-5Kに追いつくと、制御を失ってロサンゼルスの郊外を飛び回る同機をひたすら追尾しました。

 その間、4回にわけてロケット弾の射撃を行いましたが、208発全弾命中せず、完全に撃墜に失敗してしまいます。しかもアフターバーナーを使ったことで燃料不足に陥り、2機のF-89Dは基地に戻ることを余儀なくされました。

 最終的にF6F-5Kドローンは、ロサンゼルスから北東約60kmにあるパームデール郊外の砂漠地帯に墜落しましたが、このドローンの墜落とF-89Dが放ったロケット弾によって、ロサンゼルスの北側で山火事や複数の建物火災が起きました。

 死者こそ出ませんでしたが、山火事は2日間続き、約400ヘクタールを焼失したそうです。実戦ではありませんが、撃墜できなかった代償は大きかったといえるでしょう。

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