■11人の賞受賞者からの警鐘

科学技術にとって平成の30年はどんな時代だったのか。少なくとも平成の終盤は悲観的な声が多かった。日本の論文数の停滞と中国の台頭など、地位低下が定量的に示されことがきっかけだ。調査の数字がマインドを冷やし、次の調査の数字を悪化させている。日刊工業新聞は平成の後期に11人のノーベル賞受賞者にインタビューした。彼らの言葉から令和の科学技術を探る。
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■科学技術立国へ

◎小林氏「反対の道だ」/梶田氏「何か示して」

 「国は科学技術立国を目指すといいつつ、反対の道を歩んでいる」(小林誠高エネルギー加速器研究機構特別栄誉教授)。「少なくとも科学技術立国には向かっていない。日本はどんな国を目指すのか。もし科学技術でないなら、何かを示してほしい」(梶田隆章東京大学教授)。科学技術を代表する受賞者たちが厳しい声を上げた。これは現場の声にも表れている。

 文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)による研究者の意識調査では、基礎研究への認識が16年から18年にかけて急速に悪化した。日本の基礎研究から国際的に突出した成果が生み出されているか聞いた設問は、36%の研究者が評価を下げ、上げた研究者は8%に留まった。基礎研究の多様性が確保されているか聞いた設問では、29%が下げ、上げたのは7%だった。差し引き研究者の2―3割が認識を悪化させた。

 理由には「役に立つ研究や成果がすぐに見える短期的研究に偏ってきている」「目の前の研究費獲得が最大の目標となっている」といった意見が挙げられた。研究の自由度が減り、知的探究心をもとに進める学術研究が苦しい状況にある。

■基礎か応用か

◎野依氏「二元論は不毛」/山中氏「競合はしない」

 この批判の矛先にあるのが大型プロジェクトだ。政府主導で社会課題の解決に向けた開発が進む。NISTEP調査では「選択と集中が過度になっている」と指摘された。ただ“多様性”と“選択と集中”は矛盾しない。二つを繰り返すことで研究テーマの新陳代謝が進み、長期的に研究の多様性が増す。「大学は基礎、応用は企業が担うべきだ」という意見に、科学技術振興機構研究開発戦略センターの野依良治センター長は「基礎か応用かという二元論は不毛だ」と断じる。京都大学の山中伸弥教授も「基礎と応用は競合するものではない」と強調する。

◎大隅氏「『役に立つ』追及の弊害」

 社会課題などに役に立つ研究も学術研究を圧迫する。東京工業大学の大隅良典栄誉教授は「医学に役に立たない生物学は存在しないことになっている。科学が長年『役に立つ』ことを求められてきた弊害が現れている」と指摘する。成果を役に立つとこじつける論文が増え、学術研究の評価が下がっている。

 お役立ち論文の前には、“新しい”とこじつける論文が量産されていた。わずかな差で新しいと主張する論文があふれ、研究の評価軸が壊れた。その反動で“役に立つ”ことが求められ、その実績として産学連携が推進された。しかし“役に立つ”という評価軸もどれが本物かわからなくなり始めている。

 結局、研究者への評価を論文の数や被引用数などの客観指標に頼る。大隅教授は「視野の狭い研究者ほど客観指標に依存する。研究者は科学全体を見渡す力を培わないと駄目になる」と指摘する。評価軸が形骸化し、評価を客観指標に依存して本質を見失う。学術界全体が大企業病にかかっているかのようだ。


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続く)