大阪大は15日、2016年の熊本地震や11年の東日本大震災を巡り、同大大学院工学研究科に所属していた秦吉弥・元准教授(故人)が地震計の観測データを捏造(ねつぞう)していたと明らかにした。他の機関が観測したデータを加工するなどし、論文に使用していた。同大学は元准教授の論文5本を不正と認定し、取り下げる手続きに入った。

大阪大によると、観測データの捏造があったのは、熊本地震の本震や東日本大震災の余震など。大阪大は「科学研究に対する信頼を損ない、地震被害に遭われた方々や関係する研究機関に多大な迷惑をかけた」とコメントを出した。

熊本地震の研究では、秦元准教授らは16年4月14日の前震の後に現地入りし、熊本県益城町に臨時の地震計を設置して観測を始めたとみられる。16日の本震は計測震度「6.9」という特に大きい揺れで、多くの木造住宅が倒壊する要因になったと報告していた。

しかし大阪大はこうした観測データは存在せず、他の場所で他機関によって得られた記録を基にした捏造だったと認定。観測によるデータそのものが確認できず、地震計を固定するために必要なアンカーが使われた形跡がないことなどから捏造と判断した。

元准教授は調査が始まった当初に「実際に測定して論文を書いた」と研究の不正を否定し、その後死去した。大阪大は死因や時期を明らかにしていない。

大阪大は元准教授が著述した論文5本に捏造や改ざんがあったとして、掲載元に対して取り下げる意向を伝えた。論文5本のうち1本の研究では日本学術振興会からの科学研究費補助金(約14万円)を受けていた。共著者の関与は確認できないとしている。

大阪大は他に元准教授が関与した、1995年の阪神大震災や発生が懸念される南海トラフ巨大地震などに関する17本の論文で捏造などが疑われると明らかにした。ただ元准教授が死去したため、聞き取り調査などが出来ず、不正の有無については判定を留保した。

観測データについては外部から「不自然な点がある」という指摘があり、大阪大が17年10月から調査していた。気象庁は元准教授のチームとは別の観測結果を基に熊本県益城町の本震の揺れを震度7としており、今回の捏造による影響はない。

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日本経済新聞
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