約1000年前に死亡した西ドイツの女性の歯についた歯垢から、金よりも高価といわれる青い顔料「ウルトラマリン」が検出されました。これぞ世界最初の「Bluetooth」だとして話題になっています。

Medieval women’s early involvement in manuscript production suggested by lapis lazuli identification in dental calculus | Science Advances
http://advances.sciencemag.org/content/5/1/eaau7126

This Unknown Woman May Have Illustrated Elaborate and Sacred Medieval Manuscripts
https://www.livescience.com/64450-ultramarine-in-medieval-teeth.html
https://i.gzn.jp/img/2019/01/11/bluetooth-medieval-women-lapis-lazuli/001_m.jpg

ウルトラマリンはラピスラズリという宝石を原料としており、非常に高価な顔料です。ミケランジェロやラファエロといった多くの有名画家に愛されていたことで知られており、特にウルトラマリンをふんだんに絵に使用したヨハネスはウルトラマリンを多用したゆえに家族を借金の泥沼に陥れていたといわれるほど。

ウルトラマリンはその貴重さゆえ、使用される作品は高価なものに限られていました。女性の歯垢からウルトラマリンが検出されたのは、女性がこれらの高価な絵画や本の製作を手伝ったことを意味しています。中世の女性とウルトラマリンのつながりを示す証拠は、これが初めてのものとのことです。研究者は、今回の発見が中世の本の出版におけるごく初期においても、女性が熟達した筆者として存在した証拠であると言及しています。

この女性は9世紀から14世紀の間に建てられた修道院の隣に埋葬されており、放射性炭素年代測定の結果、997年から1162年あたりに生きていたとのこと。45歳から60歳ごろに死亡したと見られ、埋葬地から考えても信心深い人物だったと推測されています。また、女性の骨を調べたところ健康状態は非常に良かったとのことで、重労働の末に死亡したわけではなさそうです。

女性の歯から青い粒子が見つかったのは2014年のことで、この時は別の研究が行われていました。青色の歯についての調査を進めるため新しい研究プロジェクトが立ち上げられ、研究者はサンプルの歯垢を砕いて青色の断片を取り出しました。顕微鏡で観察された青い粒子は唇近く、正面の別々の歯から採取したもので、100以上の粒子が「深い青」に染まっていたといいます。歯垢は1度に青く染まったのではなく、絵筆を加えるといった行為を何度も重ねることにより染まったものだと見られています。

研究者は青色が藍銅鉱、孔雀石、藍鉄鉱といった他の鉱物に由来する可能性も調査しましたが、それらの粒子と比較しても、また振動準位や結晶構造から見ても、粒子はラピスラズリに間違いないと結論づけました。

もちろん、女性が画家のために顔料を準備し、粉じんから歯に粒子がついた可能性も否定できません。また、地中海やイスラム圏ではラピスラズリを飲むという習慣が一般的だったため、医療的な用途でラピスラズリが使用されていた可能性もありますが、当時のヨーロッパではこのような習慣がなかっため可能性は低いと研究者は見ています。

当時のヨーロッパでは、ラピスラズリは装飾写本で使用されるのが普通でした。このため、研究者は女性が細かい部分を描くために何度も筆をなめていた可能性が高いと見ています。

当時の聖典は修道院で暮らす男子によって書かれたという考えが一般的ですが、一方で修道院で暮らす、教育を受けた貴族出身の女性が記していたという証拠も多く存在するとのこと。中世初期に女性によって書かれた文献の記録はほとんど見つかっておらず、今回の研究結果はドイツの信心深い女性によって高価な顔料が使用されていたことを示す考古学的な発見だと研究者は述べています。
https://i.gzn.jp/img/2019/01/11/bluetooth-medieval-women-lapis-lazuli/002_m.jpg

https://gigazine.net/news/20190111-bluetooth-medieval-women-lapis-lazuli/