古代エジプトでは、妊娠した女性はカバの姿をした出産の神タウエレトや、小さな子と母親を守るとされた戦いの神ベスに祈りをささげ、お守りとしてネックレスやブレスレットを身に着けた。母親になると、社会でも認められるようになり、地位が向上した。古代エジプト文化では、子を崇め、多産であることは賛美された。その一方で、出産で亡くなる人も少なくなかったと考えられている。

 最近エジプトで、3700年前に亡くなった出産間近の妊婦の墓が発見された。エジプト考古省が2018年11月14日に行った発表によれば、イタリアと米国の共同発掘チームが、エジプト南部のアスワンに近い墓地で骨盤の近くに頭を下にした赤ん坊を宿した女性の遺骸を発見した。出産が原因で亡くなった可能性があるという。今回の発見は、古代における妊産婦の死亡率を知る手掛かりとして期待されている。

 米セントラルフロリダ大学の生物考古学者サンドラ・ウィーラー教授は、「この時代の、女性のお腹の中にいる胎児が見つかったことは大変貴重です」と話す。「出産は危険を伴うもので、当時、妊産婦が死亡するのは珍しくなかったーーという考えを今回の発見は補強します。もちろん、今日でも女性が直面する問題です」

 遺骸には皮膚や筋肉といった軟組織が残っていないため、「女性の死因を特定することはできないと思う」とウィーラー氏は語る。発見を伝えたプレスリリースには「母親の骨盤が歪んでいた」とあり、これは女性が成長の重要な時期に外傷を受けたか、成長時に栄養不良だった可能性があると考えられる。「こうした手掛かりが、当時の女性の生活の糸口となるのです」

ウィーラー氏は今回の発見に携わっていないが、古代エジプトの、妊娠から出産、赤ん坊の離乳にいたる女性の生活史の研究に、考古学者たちと取り組んでいる。現在、発掘作業を行っているエジプト西方砂漠のダクラオアシスの墓地跡では、流産したと見られる未熟な胎児200体が個別に埋葬されているのが見つかっている。「古代エジプトで、人間がいつから人格を認められていたかを示しています。埋葬の様子からは、胎児のときから完全な人と考えられていたように見えます」

 古代エジプトにおける妊産婦の死亡率や正確な死亡原因を判断することは難しい。そこで、研究者たちは、現在でも医者や医療機関の利用が難しい現代のコミュニティのデータを当てはめて、数千年前の人々がどんな危険に直面していたかをあぶり出そうとしている。ウィーラー氏は続ける。「妊産婦や幼児が死亡するなんて大昔の話だと思われていたら大間違いです。今も、同じですよ」

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