■AIは未来予測や政策に活用できるか
「AI(人工知能)」という言葉が、あらゆる場面に登場している。

アメリカの未来学者カーツワイルが唱えたいわゆる「シンギュラリティ(技術的特異点)」論ないし
“2045年問題”のように、最高度に発達したAIがやがて人間を凌駕し、
さらにはそれが人体改造された人間と結びついて“永遠の意識”が生まれるといった議論も存在する。

また、AIによって人間の仕事ないし雇用の大半が取って代わられ大量の失業が生まれるといった話題は繰り返し論じられている。

しかし昨今の議論を聞いていると、いささかAIの能力が過大評価ないし“神聖化”されているように思われることが多い。

私は1980年代末の2年間をアメリカのボストンで(MITの大学院生として)過ごしたが、
当時はAIの「第二次ブーム」と呼ばれている時期で、現在と同様にAI論が非常に盛り上がっており、
“病気の診断もすべてAIが行うようになるので医者はいらなくなる”といった議論もよく行われていた。

その後いったんそうした「ブーム」は沈静化し、やがてリバイバルとなったわけだが、
そうした流れからも、少し冷静な視点が重要だろう。

いずれにしても、このようにAIに対する社会的関心が高まっている中で、
私たちの研究グループ(私を含む京都大学の研究者4名と、
2016年6月に京都大学に創設された日立京大ラボのメンバー数名)は2017年9月、
AIを活用した日本社会の持続可能性と政策提言に関する研究成果を公表した
(「AIの活用により、持続可能な日本の未来に向けた政策を提言」ウェブサイト参照)。

その内容は、AIを活用して2050年頃に向けた約2万通りの将来シミュレーションを行い、
併せて採られるべき政策の選択肢を提起するという趣旨のものだった。

“AIを活用した社会構想と政策への活用”という研究はほとんど日本初のものだったこともあり、
政府の各省庁、関連機関、地方自治体、民間企業等、各方面から多くの問い合わせをいただき、
こうしたテーマに対する関心の高さと手ごたえを感じた(たとえば長野県庁の取り組みについては、
「県の政策、AIが提言――18年度、実証研究実施へ」日本経済新聞・長野版2012年2月2日付記事参照)。

ここではその概要を紹介するとともに、その先に展望される日本や世界の未来像について若干の議論を行ってみたい。

■2050年、日本は持続可能か?

今回の研究の出発点にあったのは、現在の日本社会は「持続可能性」という点において
“危機的”と言わざるをえない状況にあるという問題意識である。

日本社会が持続可能性において危機的であるということは、多くの事実関係から言えることだが、
特に次のような点が重要ないし象徴的な事柄と言えると思われる。

(1)財政あるいは世代間継承性における持続可能性

しばしば指摘されるように、政府の債務残高ないし借金が1000兆円あるいはGDPの約2倍という、
国際的に見ても突出した規模に及んでおり、言い換えれば膨大な借金を将来世代にツケ回ししていること

(2)人口における持続可能性

生活保護受給世帯ないし貧困世帯の割合が90年代半ば以降急速に増加しており、
格差が着実に広がるとともに、子ども・若者への支援――筆者が「人生前半の社会保障」と呼んできたもの
――が国際的に見てきわめて手薄いことから、若年世代の困窮や生活不安が拡大し、
このことが低出生率あるいは少子化の大きな背景となっていること

(3)コミュニティないし「つながり」に関する持続可能性

著名な国際比較調査(ミシガン大学が中心に行っている「世界価値観調査World Values Survey」)において、
「社会的孤立度」(=家族などの集団を超えたつながりや交流がどのくらいあるかに関する度合い)が、
日本は先進諸国においてもっとも高くなっていること

こうした事実に示されるように、現在の日本は持続可能性という点において相当深刻な状況にある。

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現代ビジネス
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