「私たちは、うんこの栄養素をどのようにして食品素材に素早くリサイクルすることができるかという概念を提唱しました。私たちの研究が画期的なのは、(うんこから)栄養素を取り出し、それを微生物反応器に入れることで、食糧(バイオマス)を“栽培”したことです。これは将来の長期宇宙飛行をより容易にする可能性を秘めています。このうんこ由来の食糧の栽培スピードは、トマトやジャガイモよりも速いのです」

この栽培には、メタンを基質として増殖するメチロコッカスという細菌の成長を利用しているそうで、研究によってできた“食糧”は動物の餌としてすでに使用されているとのこと。

しかも、この研究によって栽培されたものは、味つけすることも可能だという。飽きることなく様々な味のうんこが楽しめるかもしれない。

とはいえ「うんこ食」実用化はやはりまだ厳しいようだ。

「現段階ではこの概念に関する最初の研究にすぎません。実装にはまだまだ時間がかかります。例えば、うんこ由来の食料を加熱調理する場合、一般的には酸素を消費し、二酸化炭素を放出することになりますが、宇宙で人が生活する空間では、二酸化炭素を再び酸素に戻してリサイクルしなければなりません。これは現時点でも可能とされていますが、いずれにせよエネルギーを必要としますし、私たちの研究はそこに焦点を当てることができていません。

従って、宇宙飛行でうんこ食が実現する可能性はまったく未知の世界です。しかし、私たちの研究は、このようなアプローチができるという確かな可能性を示しました」

ただし、前出の石井氏はこう言う。

「気をつけてほしいのは、こういう研究をそのまま信じて、『うんこは食べられる』と思ってしまうことの危険性です。研究は、あくまでも人工糞便(ふんべん)を使い、いい菌だけを抽出しているのです。いい菌だけで作ると乳酸菌や漬物、ビールのような発酵食品になりますが、実際のうんこの中には悪い菌もいますから」

また、医師として最後にこれだけは伝えたいと石井氏。

「腸に病気があると、うんこに出るんです。例えば、胃潰瘍や胃がんはうんこが胃酸で黒くなります。ほかにも、大腸がんになると細いうんこになったり、表面に血がついたりします。だから、うんこを観察するのは体調の変化に気づくためにはすごく大事だということを覚えておいてほしいです。ちなみにスカトロジストという言葉は、元々はうんこを食べる人という意味ではなく、排便研究家という意味だったみたいですよ」

石井氏は、うんこを食べて人が亡くなったという例は今のところ耳にしたことはないというが、それはあくまでも医療技術の進歩によるものであって油断は大敵。シロウトが手を出すことは控えたい。

ともあれ、いつかNASAの「うんこ食」研究が実を結び、「完全自給自足の一生うんこ生活」を送れる日は来るのだろうか?

(取材・文/田中将介 写真/NASA)