本や文章などの記録がない時代の人類については、かつて考古学で研究されていましたが、
「人種や民族がどのように移り変わっていったのか」は、ジェノグラフィック・プロジェクトの例に見られるように、
今や考古学よりも遺伝学によって多くの事が分かりつつあります。

Ancient DNA is Rewriting Human (and Neanderthal) History - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/science/archive/2018/03/ancient-dna-history/554798/?single_page=true

遺伝学者のデヴィッド・ライヒさんが、クロアチアの洞窟で発見された4万年前のネアンデルタール人の骨から抽出した
DNAサンプルを分析した結果、ネアンデルタール人が当時ヨーロッパに住んでいた現世人類と交配していたということが明らかになりました。
また、現代のヨーロッパ人よりも東アジア人のほうがネアンデルタール人のDNAをより多く受け継いでいることが判明し、
「ネアンデルタール人が滅んだ後、ネアンデルタール人と交配していた人類は
ユーラシア大陸を東に移動していった可能性が高い」とライヒさんは主張しています。
https://i.gzn.jp/img/2018/03/19/ancient-dna-reveal-history/a01_m.jpg

ライヒさんの研究によれば、ヨーロッパに住む人類は今から4万1000年前〜3万9000年前に、
ネアンデルタール人から現世人類へ置き換わっていったそうです。ヨーロッパで見つかった最古の現世人類は、
現代のヨーロッパ人と遺伝的には全く関連していないとのことで、今では絶滅してしまった人種とみられています。

現在のヨーロッパの狩猟採集民につながる人種は3万7000年前〜3万5000年前から見られるとのことですが、
その後に氷河期が訪れたため、北ヨーロッパに住んでいた人類の多くが南へ大移動を行ったとみられていて、
氷河期が終わると、トルコ・ギリシャ・スペインなどから人類が北ヨーロッパへ再び移住したと考えられています。

例えば、1903年にイギリスで発見されたチェダーマンは約1万年前の骨で、
ヨーロッパの南東から北へ移り住んだ人種のものといわれています。
実際にチェダーマンのDNAを分析した結果、現代の北ヨーロッパ人の特徴である白い肌と金髪は有していませんでしたが、
青い目を持っていたことが判明しています。つまり、現代の北ヨーロッパ人は元より単一の人種なのではなく、
1万年前に北ヨーロッパへ移住してきたさまざまな人種が混ざり合った結果である可能性が高まりました。
https://i.gzn.jp/img/2018/03/19/ancient-dna-reveal-history/a02_m.jpg

他にも、人種による遺伝的な免疫の差がそれぞれの人種の広がりに大きな影響を与えていたことも分かりました。
古代の人骨から抽出したDNAを分析・比較することで、
はるか昔にさまざまな人類種の交配や大移動が見えるというわけです。

ただし、ライヒさんたちの研究で分かったことの一部が、第二次世界大戦中にナチス・ドイツが主張していた
「アーリアン学説」に重なると解釈される恐れもあると判断され、ライヒさんたちは研究を一時中断したそうです。
特に考古学の世界においては、考古学の研究がナチス・ドイツのプロパガンダにゆがめられて使われたこともあり、
「人種・民族の変遷」というテーマには神経質になっていることも影響しているとのこと。

ライヒさんは「おそらく考古学者や言語学者は、
私たち遺伝学者が考古学の専門用語や考え方をちゃんと学んでいないことにいらいらしていると思います。
しかし私たちは、古代人類のDNA分析という強力な道具を手に入れています」と語っています。
さらに「これらの研究データによって、人種の違いはせいぜい数千年の歴史で生まれたものに過ぎず、
どれもみんな交配を重ね、混ざり合った結果だと分かりました。
私たちは民族移住や異人種交配にもっと心を開くべきです」と、ライヒさんは主張しています。

GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20180319-ancient-dna-reveal-history/