時間の流れを壊す


2016年8月、フランク・ウィルチェックが構想した時間結晶を、
研究室で生成するためのアイデアを具体的に発表したのは、
カリフォルニア大学バークレー校の准教授ノーマン・ヤオだ。
彼は、熱平衡に達することが決してできない周期的に駆動される系では、
時間結晶が可能であるかもしれないと主張。
ウイルチェックが提唱したような平衡状態にある「閉じた系」ではなく、
非平衡状態にある「開かれた系」での時間結晶の作成を提案した。


「あなたがゼリーを揺さぶったとき、
それが予想する揺れとは違う反応を示したとすれば、
すごくおかしなことだと思いませんか?」と、
ヤオはバークレー校のプレスリリースにて、
時間結晶のふるまいをゼリーの振動にたとえて説明している。
「それが時間結晶の真髄とも呼べるものなのです。
駆動する力の周期をTとするならば、それに系は同調し、
T以上の周期で振動するのが観測できるということなのです」


ウイルチェックが提案した時間結晶の“旧ヴァージョン”では、
最低エネルギー状態になるまで冷やされたゼリーは、
外から何の力も加えられずにひとりでに振動しはじめ、それが続くことになる。
ヤオの主張はここまでぶっ飛んではいないものの、
加えられた力の周期とは異なる周期で安定して振動し続けるゼリーというのも、
十分に規格外な物質といえるのではないだろうか。


非平衡状態にある時間結晶の誕生


一方、メリーランド大学のクリス・モンロー率いる研究チームは、
2016年9月、ヤオが提案した実験方法に基づいた時間結晶の生成に成功。
彼らは、元素イッテルビウム(ytterbium)のイオン10個をリング状に並べ、
これらの平衡状態を崩すために1つめのレーザーで磁場を形成。
次に、1つのイオンのスピンを2つ目のレーザーパルスで反転させた。
すると粒子の相互作用により、次のイオンのスピンが反転し、
それがまた次のイオンへと反転が続いた。
彼らは一定のリズムでスピンを反転させ、
その2倍の周期で反転を繰り返す系をつくり出した。


その1カ月後の10月には、
ハーヴァード大学教授のミハイル・ルーキン率いる研究グループが、
中心部に窒素原子が存在する特殊なダイヤモンド結晶を使用して時間結晶を生成した。
彼らは強い相互作用と不規則性をもつ約100万個の量子電子のスピンを、
マイクロ波パルスで反転させると、
系はマイクロ波パルスの3倍の周期でスピン反転を繰り返した。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170410-00010001-wired-sctch&;p=2