冥王星のクジラ模様は衛星カロンを作ったジャイアント・インパクトの痕跡だった

関根 康人(地球惑星科学専攻 准教授)
玄田 英典(東京工業大学地球生命研究所 特任准教授)

発表のポイント

冥王星とその巨大な衛星カロンは、地球と月の形成と同様に、原始惑星のジャイアント・インパクト(注1)によってできた。

そのジャイアント・インパクトの痕跡が、冥王星の赤道域に広がる褐色のクジラ模様、通称「クトゥルフ領域(注2)」だと考えられる。

地球形成領域から太陽系外縁部までにわたって、原始惑星同士が頻繁に衝突・合体する大変動を経て、現在の太陽系ができあがったことを示唆。

発表概要

2015年8月、探査機ニューホライズンズ(注3)は、冥王星に初めて接近通過し、観測を行った。
その結果、冥王星表面には驚くほど多様な物質や地形が存在していることがわかった。
その中でも目を引くのが、クジラ模様の褐色の地域「クトゥルフ領域」である。
クトゥルフ領域は冥王星の赤道域に存在しており、何らかの大規模現象でできた可能性があるが、その成因は全くの謎であった。

東京大学大学院理学系研究科の関根康人准教授、東京工業大学地球生命研究所の玄田英典特任准教授らは、このクトゥルフ領域が冥王星の巨大な月カロンが形成したときのジャイアント・インパクトの痕跡であることを示した。
関根准教授は室内実験によって、冥王星に存在する単純な分子種が、およそ50℃以上で数か月以上加熱されると、クトゥルフ領域に存在するような褐色の有機物になることを明らかにした。
玄田特任准教授は数値シミュレーションによって、そのような加熱がカロン形成のジャイアント・インパクト時に、クトゥルフ領域と同程度の位置や広さにわたって生じることを示した。
冥王星以外のカイパーベルト天体(注4)にも、クトゥルフ領域に見られるような褐色物質が存在しているが、これまでその成因や多様性についての統一的な説明はなされていなかった。
本研究は、カイパーベルトで頻繁に起きていたジャイアント・インパクトが、このような天体の色の多様性を生み出したという新たな描像も提案する。
このことは、地球―月系の起源であるジャイアント・インパクトも含め、地球形成領域から太陽系外縁部までにわたって原始惑星同士が頻繁に衝突・合体するという大変動があり、これを経て現在の姿になったことを示唆する。
--- 引用ここまで 全文は引用元参照 ---

▽引用元:東京大学大学院 理学系研究科・理学部 2017/01/31
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/5239/

図1:探査機ニューホライズンズによって撮影された冥王星(右下)とカロン(左上)の写真(画像提供NASA/APL)。冥王星の左下に、褐色のクトゥルフ領域が見える。
https://apps.adm.s.u-tokyo.ac.jp/WEB_info/p/pub/2046/sekine_1.jpg
図2:探査機ニューホライズンズが撮影した画像を基に、メルカトル図法で作成された冥王星の地図 (画像提供NASA/APL)。
下図の点線は、クジラ模様の褐色の領域「クトゥルフ領域」を模式的に示している。
https://apps.adm.s.u-tokyo.ac.jp/WEB_info/p/pub/2047/sekine_2.png